四六判/上製/288頁
初版年月日:2012/10/31
ISBN:978-4-7664-1970-2
(4-7664-1970-7)
Cコード:C3014
定価 3,080円(本体 2,800円)
文化と霊性
樫尾 直樹 編
大衆文化、宗教、哲学、教育、医療の現場の視点から、現代社会における霊性文化の動向を探り、そのあるべき姿を問う。
▼霊性=スピリチュアリティ文化を、多角的に論じる。スピリチュアリティブームの光の側面だけでなく、カルト問題などに見られる闇の側面まで取りあげ、「スピリチュアリティ」という人間の本源的な意識と意味に迫る。
文化と霊性
目次
はじめに
序 章 スピリチュアリティとは何か
――現代文化の霊性的諸相 樫尾直樹
Ⅰ こころといのちのケア
第1章 スピリチュアリティとセラピー文化 小池 靖
第2章 現代医療文化におけるスピリチュアリティの位相
――スピリチュアリティの医療化を批判しながら 安藤泰至
Ⅱ 瞑想する身体
第3章 瞑想の諸伝統を俯瞰する 葛西賢太
第4章 「スピリチュアルな探求」としての現代体操ヨーガ 伊藤雅之
Ⅲ 霊性探求の光と闇
第5章 教育におけるスピリチュアリティ
――その成立と展開 中川吉晴
第6章 新宗教運動とスピリチュアリティ・ブーム 櫻井義秀
Ⅳ 魂のエコロジー
第7章 スピリチュアリティへの心理学的アプローチ 中村雅彦
第8章 哲学とスピリチュアリティ
――マルセルの場合 奈良哲龍
あとがき
執筆者一覧
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
【編 者】
樫尾 直樹(かしお なおき)
慶應義塾大学文学部准教授。宗教学専攻。慶應義塾大学経済学部卒。東京大学大学院人文科学研究科宗教学・宗教史学専攻博士課程修了。早稲田大学・東京外国語大学助手、フランス国立高等研究院客員教授等を経て、現職。祭り・民俗芸能や新宗教運動の人類学的調査研究等の後、日本、韓国、フランス等をフィールドとして、自らも毎日坐禅と道教瞑想を実践しながら比較瞑想論と宗教間対話論を研究し、瞑想行の一般理論構築を目指している。著作に、『スピリチュアリティ革命――現代霊性文化と開かれた宗教の可能性』(春秋社、2010年)、『スピリチュアル・ライフのすすめ』(文藝春秋、2010年)、『スピリチュアリティを生きる――新しい絆を求めて』(編著、せりか書房、2002年)、『スピリチュアリティの社会学――現代世界の宗教性の探求』(共編、世界思想社、2004年)等。
【執筆者】
小池 靖(こいけ やすし)
立教大学社会学部准教授。東京大学大学院博士課程修了。博士(社会学)。宗教社会学、心理主義論を専門としている。著作に、『セラピー文化の社会学』(勁草書房、2007年)、「親密圏とスピリチュアリティ」(『宗教研究』365号、日本宗教学会、105-26頁、2010年)、「被害者のクレイムとスピリチュアリティ」(櫻井義秀編『カルトとスピリチュアリティ』ミネルヴァ書房、2009年)、「現代宗教社会学の論争をめぐるノート――霊性・合理的選択理論・世俗化」(『現代宗教2002』東京堂出版、302-19頁、2002年)等。
安藤 泰至(あんどう やすのり)
鳥取大学医学部准教授。専門は宗教学・死生学・生命倫理。京都大学文学部卒。京都大学大学院文学研究科宗教学専攻博士後期課程中退。米子工業高専講師、鳥取大学医学部講師、ヴァージニア大学実践倫理研究所招聘研究員等を経て現職。医療技術や生命科学の発展が投げかける「いのちへの問い」を既存の生命倫理学を超えて探究しつつ、新しい死生の文化の創造のための理論構築を目指している。著作に、『「いのちの思想」を掘り起こす――生命倫理の再生に向けて』(編著、岩波書店、2011年)、『シリーズ生命倫理学4 終末期医療』(共編、丸善、2012年)、『死生学[1]』(共著、東京大学出版会、2008年)、『生命の産業――バイオテクノロジーの経済倫理学』(共著、ナカニシヤ出版、2007年)等。
葛西 賢太(かさい けんた)
宗教情報センター研究員。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了、博士(文学)。学術振興会特別研究員、上越教育大学学校教育学部助手を経て、現職。心理学と宗教とが相互交渉する運動に関心をもち、とりわけ比較瞑想研究、仏教と心理学との出会い、および、アルコール依存症の断酒自助会と、日本における禁酒・自律の歴史を考察の対象とする。人の姿を描き、宗教報道を継続的に追うことを掲げた、同センターウェブサイトの運営者でもある。著書に、『現代瞑想論――変性意識がひらく世界』(春秋社、2010年)、『断酒がつくり出す共同性――アルコール依存からの回復を信じる人々』(世界思想社、2007年)、『仏教心理学キーワード事典』(井上ウィマラ・加藤博己との共編、春秋社、2012年)、『宗教学キーワード』(島薗進他との共編、有斐閣、2006年)等。
伊藤 雅之(いとう まさゆき)
愛知学院大学文学部准教授。1998年、米国ペンシルバニア大学大学院博士課程修了。日本学術振興会特別研究員を経て、2001年より現職。専門は宗教社会学。とくに現代世界に広がるスピリチュアリティ文化(ニュー エイジ、ホリスティック心理学など)に関する研究をおこなう。同時にヨーガと瞑想の実践をライフワークとし、各地で講演とワークショップを開催する。著作に、『現代社会とスピリチュアリティ――現代人の宗教意識の社会学的探究』(渓水社、2003年)、『スピリチュアリティの社会学――現代世界の宗教性の探求』(共編、世界思想社、2004年)、『宗教社会学――宗教と社会のダイナミックス』(共訳、明石書店、2008年)、『現代人のためのヨーガ・スートラ』(監訳、産調出版、2009年)等。
中川 吉晴(なかがわ よしはる)
同志社大学社会学部教授。トロント大学大学院オンタリオ教育研究所博士課程修了(Ph.D.)。立命館大学文学部教授を経て2012年から現職。ホリスティック教育を専門とし、現在はアジアにおけるその展開にかかわっている。2009年にはブータン政府の招きでGNH教育会議に参加。著作に、『ホリスティック臨床教育学――教育・心理療法・スピリチュアリティ』(せせらぎ出版、2005年)、『気づきのホリスティック・アプローチ』(駿河台出版社、2007年)、 Education for Awakening (Foundation for Educational Renewal, 2000), Cross-Cultural Studies in Curriculum (共著、LEA, 2008), International Handbook of Inter-religious Education (共著、Springer, 2010)等。
櫻井 義秀(さくらい よしひで)
北海道大学大学院文学研究科教授。宗教社会学専攻。北海道大学文学部卒。北海道大学大学院文学研究科博士課程中退。北星学園女子短期大学講師を経て北海道大学文学部講師、現職。専門は、宗教社会学、タイ・東アジア宗教文化研究。著作に、『東北タイの開発僧――宗教と社会貢献』(梓出版社、2008年)、『死者の結婚――祖先崇拝とシャーマニズム』(共著、北海道大学出版会、2010年)、『越境する日韓宗教文化――韓国の日系宗教 日本の韓流キリスト教』(共編、北海道大学出版会、2011年)、『日本に生きる移民たちの宗教生活――ニューカマーのもたらす宗教多元化』(共編、ミネルヴァ書房、2012年)等。
中村 雅彦(なかむら まさひこ)
立命館大学、名城大学非常勤講師。社会心理学、トランスパーソナル心理学専攻。神戸大学教育学部卒。名古屋大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育心理学)。愛媛大学教育学部教授(2008年退職)等を経て、現職。愛媛大学退職後は、トランスパーソナル心理学の観点から四国の民俗宗教の研究を継続し、自らも祈祷師としての実践を行っている。著作に、『対人魅力の形成』(ふくろう出版、2003年)、『呪いの研究――拡張する意識と霊性』(トランスビュー、2003年)、『祈りの研究 現世利益の実現』(東洋経済新報社、)、『祈りの力――願望実現へのアプローチ』(東洋経済新報社、2009年)等。
奈良 哲龍(なら てつろう)
慶應義塾大学文学部教授。1993年慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。東京大学大学院医学系研究科特任講師、慶應義塾大学文学部准教授を経て、現職。専門は、医療倫理学、現代フランス哲学。著書に、『シリーズ生命倫理学 第12巻 先端医療』(共著、丸善出版、2012年)、『医療と生命』(共著、ナカニシヤ出版、2007年)、『倫理学案内 理論と課題』(共著、慶應義塾大学出版会、2006年)、『入門・医療倫理Ⅰ』(共著、勁草書房、2005年)、「マルセルの哲学における実存から存在への展開について」(三田哲学会誌『哲学』第87集、1988年)等。
From Japan
Teru Sun
5.0 out of 5 stars 多角的な学際面からのスピリチュアリティ論考
Reviewed in Japan on November 3, 2012
「スピリチュアル」「スピリチュアリティ」という言葉が一般に広く認知され使われるにいたった端緒の一つは、メディアを主に活動していた “スピリチュアル・カウンセラー” 江原啓之氏の影響が多くを占めていると思います。私自身も「スピリチュアル」という言葉をウェブ上で使いますし江原氏の著書を読んできているので影響を強く感じています。江原氏やメディアの影響力で「スピリチュアル」という言葉の認知度は増した面も大いにあったと思います。
しかし、だからといって「スピリチュアル」という言葉の本来的意味合いとした“健全で良識あるスピリチュアリティ”への理解が一般に広まったという訳ではないと感じる出来事がたびたび浮かび上がって来ることがあります。安易で危ない面が取り沙汰される自己啓発セミナーでの高額な金銭のやり取り、霊感占い師による「スピリチュアル商法(霊感商法)」の問題が活発になったのも、江原スピリチュアル・ブームの前後に頻発していたように思います。
WHO(世界保健機構)では、日本国内のスピリチュアル・ブーム以前から「スピリチュアリティ」という語が“心の健康面”に関する項目として重要視されるようになっています。また教育面でも「心の教育」と名づけられた“スピリチュアリティ教育”が国内でも行われ、シュタイナーやモンテッソーリ,クリシュナムルティが主唱した子供たちの健全な霊的な面を考慮した“多角的な心の発達を促す“永遠の哲学”に基づいた教育なども行われています。海外では瞑想を取り入れた教育も盛んになっているようです。国内の書店を眺めれば「脳科学」を売りにした科学的瞑想の書籍もベストセラー書に名を連ねています。また大衆文化として「スピリチュアル」な聖地巡りなども盛んに行われています。これらすべてが〈霊性〉と訳語が充てられる「スピリチュアリティ」のことです。
本書では、これら取りまとめるには広大過ぎるように思われる「スピリチュアリティに関わる個人と集団、社会と文化」の動向を、四つの(臨床・宗教・大衆・環境)文化として分け、それぞれの分野で研究を行っている方々の論考をまとめて編集されたものです。本論考の基になったのは平成23年に慶応義塾大学で行われた総合講座「スピリチュアリティの歴史と現在」だそうです。多角的に「霊性」を考究されている内容が短くまとめられているので、学際的なスピリチュアリティ研究を知るためには大変参考になるものに感じます。私個人が特に興味をひかれた論考は、個人の内面にある霊性を哲学的視点に立って考えている第8章の「ガブリエル・マルセル」についてでした。すべての論考が興味深く読者によって注目できる話題があるように思います。
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