2020/05/15

レフ・トルストイ - Wikipedia

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影響[編集]

ロシア[編集]

トルストイは存命中から人気作家であっただけでなく、ガルシンチェーホフコロレンコブーニンクプリーンに影響を与えた。トルストイの影響は政治にも及んだ。ロシアでの無政府主義の展開はトルストイの影響を大きく受けている。ピョートル・クロポトキン公爵は、ブリタニカ百科事典の「無政府主義」の項で、トルストイに触れ「トルストイは自分では無政府主義者だと名乗らなかったが……その立場は無政府主義的であった」と述べている。
ソ連時代も共産党から公認され、その地位は揺るがなかった[27]。 ウラジーミル・レーニンが愛読者であったことは知られている。トルストイは、革命後ソ連で活動したミハイル・ショーロホフアレクセイ・トルストイボリス・パステルナーク[28]をはじめ多くの作家に影響を与えている。またアメリカで活躍したウラジミール・ナボコフはトルストイの特異な技法に注目しながら[29]、ロシア作家中で最高の評価を与えている。
宗教思想について本格的に論じられるようになるのはペレストロイカ以降である[30]。また、トルストイの教科書をもとにした教科書がペレストロイカ後に出版されている[31]

西欧[編集]

西欧においては1880年代半ばには大作家としての評価が定着した[32]。またロマン・ロラントーマス・マンらがトルストイの評伝を書き、マルタン・デュ・ガールが1937年ノーベル賞受賞時の演説でトルストイへの謝意を述べるなど、その影響は世界各国に及んでいる[33]。一方トルストイの非暴力主義にはロマン・ロランやガンディーらが共鳴し、ガンディーはインドの独立運動でそれを実践した。
2002年にノルウェー・ブック・クラブ[34]が選定した「世界文学最高の100冊」[35]に『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』『イワン・イリッチの死』が選ばれている。2007年刊行の『トップテン 作家が選ぶ愛読書』[36]においては、現代英米作家125人の投票により、世界文学史上ベストテン[37]の第1位を『アンナ・カレーニナ』が、第3位を『戦争と平和』が獲得した。

日本[編集]

日本ではトルストイは最も尊敬された外国作家の一人である[38]。文学者・宗教者・社会主義者など広範な人々が影響を受けている。初めて作品が翻訳されたのは1886年(明治19年)であり、森鷗外幸田露伴といった一流作家も重訳ながら短編を翻訳した[39]
 徳富蘇峰徳冨蘆花らはヤースナヤ・ポリャーナで直接面会している。森鷗外や島崎藤村も作品に親しんだ[40]
日露戦争反対の論文『悔い改めよ』(1904・明治37)は、幸徳秋水堺利彦らの『平民新聞』に掲載されて社会主義者を鼓舞し、与謝野晶子の『君死にたまふことなかれ』執筆の契機となった。
『平民新聞』の関係者であった木下尚江中里介山も以後トルストイと関わっていくことになる[41]
同じころ賀川豊彦は作品を読んで反戦思想を形成しつつあった。1914年(大正3年)から島村抱月によって悲恋物語に脚色された『復活』が松井須磨子主演で上演され、大評判となる。
大正期にはトルストイの思想が白樺派の文学者を中心に大きな影響を及ぼしている。武者小路実篤の「新しき村」の運動や有島武郎の農地解放はその例である。宮沢賢治も文豪に関心を寄せた作家としてあげられる[42]。また最初の全集も大正期に出版されている[43]


主要作品[編集]

脚注・出典[編集]

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  1. ^ ロシア文学者の小笠原豊樹訳によるウラジーミル・ナボコフ『ナボコフのロシア文学講義』(河出文庫)では、レオ(ロシア語ではレフ、またはリョフ)・トルストイと表記されている。
  2. ^ 「トルストイ 大地の作家」(ユーラシア選書)p9 糸川紘一 東洋書店 2012年6月11日初版第1刷
  3. ^ 「トルストイ 大地の作家」(ユーラシア選書)p29 糸川紘一 東洋書店 2012年6月11日初版第1刷
  4. ^ 「トルストイ 大地の作家」(ユーラシア選書)p45 糸川紘一 東洋書店 2012年6月11日初版第1刷
  5. ^ 「トルストイ」p86 藤沼貴 第三文明社 2009年7月7日初版第1刷
  6. ^ 「トルストイ」p125 藤沼貴 第三文明社 2009年7月7日初版第1刷
  7. ^ 『同時代人』と訳されることもある。
  8. ^ 藤沼 2009203-208、228-233頁
  9. ^ 木村彰一 1977168頁
  10. ^ 「トルストイ 大地の作家」(ユーラシア選書)p156 糸川紘一 東洋書店 2012年6月11日初版第1刷
  11. ^ 当時、皇帝官房第三部による取り締まりがロシア文学を弾圧していた。フョードル・ドストエフスキーは、1849年から1854年までシベリア流刑オムスク収監に処された。
  12. ^ 藤沼 2009203-208、256-257頁
  13. ^ レフ・トルストイの父ニコライ・イリイチ・トルストイは祖国戦争に従軍している。
  14. ^ 藤沼 2009331-332頁
  15. ^https://www.sankei.com/life/news/180331/lif1803310001-n1.html 「ロシアの文豪から世界の若者へのメッセージ トルストイ生誕190周年に考える 作家・翻訳家 ふみ子デイヴィス氏」産経新聞 2018.3.31 2019年11月5日閲覧
  16. ^ 藤沼 2009334頁
  17. ^ 中村融「解説」『トルストイ全集17 芸術論・教育論』河出書房新社・1973・437頁
  18. ^ 藤沼 2009434-435頁
  19. ^ 『集英社 世界文学大事典3』集英社・1997・241頁
  20. ^ 藤沼 2009510頁
  21. ^ 長司祭牛丸康夫著『日本正教史』日本ハリストス正教会教団発行、1978年、73頁。
  22. ^ 中村喜和他『世界文学シリーズ・ロシア文学案内』朝日出版社・1977・59頁
  23. ^ ロマン・ロラントルストイの生涯フランス語版』岩波文庫・1973・168、186頁
  24. ^ 藤沼 2009583頁
  25. ^ チャールズ・シュルツは『ピーナッツ (漫画)』で妻を擁護している。
    Linus van Pelt: When Leo Tolstoy was writing "War and Peace", his wife, Sonya, copied it for him seven times. And she did it by *candlelight*, *and* with a dip pen. And sometimes, she had to use a magnifying glass to make out what he had written.
    Charlie Brown: Linus, I really...
    Linus van Pelt: Had to do it after their child had been put to bed, and the servants had gone to their garrets, and it was quiet in the house. Just think, Charlie Brown: she wrote the book seven times with a dip pen. And you're telling me you can't even read it once?
  26. ^ 文豪トルストイの孫の孫、ロシア大統領顧問に” (2012年5月26日). 2012年5月26日閲覧。
  27. ^ マーク・スローニム『ロシア文学史』新潮社・1976・339-340頁
  28. ^ パステルナークは、父親の画家レオニードがトルストイの小説の挿絵を描き、幼少の頃から家族ぐるみのつきあいをしていた。レオニードはアスターポヴォ駅に駆けつけ、トルストイの死に顔をスケッチし、デスマスクをとったが、当時20歳のボリスも同行していた。(稲田定雄「解説」『世界の詩集18 パステルナーク詩集』角川書店・1972・226頁)
  29. ^ トルストイが発見したことの一つで、不思議にも従来、批評家達が決して気づかなかったことがある。 -略- 私達の時の概念と非常に快適かつ正確に一致する生活描写の方法ということである。私の知る限り、トルストイは自分の時計を読者達の無数の時計に合わせた唯一の作家なのだ。─ウラジミール・ナボコフ『ロシア文学講義』TBSブリタニカ
  30. ^ 『集英社 世界文学大事典3』集英社・1997・244-245頁
  31. ^ 藤沼 2009334頁
  32. ^ 柳富子『トルストイと日本』早稲田大学出版部・1998・9頁
  33. ^ 『集英社 世界文学大事典3』集英社・1997・244頁
  34. ^ 「Norwegian Book Club」(De norske Bokklubbene
  35. ^ (The 100 Best Books of All Time)
  36. ^ “The Top Ten: Writers Pick Their Favorite Books”
    Zane,J.Peder(ed.),The Top Ten: Writers Pick Their Favorite Books, New York,London,2007
  37. ^ http://www.toptenbooks.net/newsingle.cgi?1270583875
  38. ^ 中村光夫『小説入門』新潮文庫・1967・66頁
  39. ^ 『集英社 世界文学大事典3』集英社・1997・245頁
  40. ^ 柳富子『トルストイと日本』早稲田大学出版部・1998・56-57頁
  41. ^ 柳富子『トルストイと日本』早稲田大学出版部・1998・29-31頁
  42. ^ 渡部芳紀『宮沢賢治大辞典』勉誠出版・2007・473頁
  43. ^ 『集英社 世界文学大事典3』集英社・1997・245頁
  44. ^ The Project Gutenberg EBook of "Bethink Yourselves", by Leo Tolstoi

参考文献[編集]

関連項目[編集]










トルストイと日本
柳富子/著

出版社名 早稲田大学出版部
出版年月 1998年9月
ISBNコード 978-4-657-98312-1
(4-657-98312-1)
税込価格 5,720円
頁数・縦 360,6P 22cm








商品内容

要旨

独創的なトルストイ論。森鴎外、芥川龍之介、中里介山をはじめ日本の知識人たちに与えたトルストイの影響を、厳密な考証に基づいて読み解く。


目次

1 概観(明治期のトルストイ受容
大正期のトルストイ受容)
2 個別作家・作品の研究(鴎外の『寒山拾得』とトルストイの『三人の隠者』
御風のなかのトルストイ―『還元録』をめぐる一考察
『或る女』考―有島のトルストイ受容に寄せて
武者小路実篤の伝記小説『トルストイ』をめぐって
芥川におけるトルストイ―その精神的な触れ合い
中里介山の二つのトルストイ論)
3 関連研究(片上伸のロシア体験―第一次留学を中心に
御風とアンドレーエフ
トルストイの『ルツェルン』―西欧との最初の出会い)
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