英語を教わるフリをして留学生を監視していた、金日成総合大学の同級生<アレックの朝鮮回顧録9> | ハーバー・ビジネス・オンライン
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英語を教わるフリをして留学生を監視していた、金日成総合大学の同級生<アレックの朝鮮回顧録9>
英語を教わるフリをして留学生を監視していた、金日成総合大学の同級生<アレックの朝鮮回顧録9>
2020.05.16印刷
アレック・シグリー バックナンバー
金日成総合大学寄宿舎内、留学生の部屋(筆者撮影)
寄宿舎で現地人学生と一つ屋根の下で暮らせる「特権」
ところで以前も本連載で取り上げたが、在北留学生の“特権”の一つは、寄宿舎で現地人学生(同宿生と呼ばれる)と近くで暮らせることだ。今回は教授の話を一旦休んで、これについて述べようと思う。 読者もすでにご存知のとおり、北朝鮮の体制下では現地人と外国人のすべての接触が厳しく管理され、制限されている。広報用の特別「参観」を除き、外国人が朝鮮人の家を訪ねることはできない。 外交官とNGO職員をはじめとする長期滞在の外国人は現地人と隔離された文繍洞外交団地で暮らしている。だからこそ、留学生が一つ屋根の下で朝鮮の学生と暮らせるのは珍しいことなのである。 北朝鮮の人々と外国人は同じ、または非常に近くで暮らすことで互いに学べることが多い。またこれは文化交流の一形式であり双方にとってとても有益なことであると考える。それにもかかわらずやはり北朝鮮であるため、同宿生システムは一筋縄ではいかず、国の自由ではない雰囲気も影響を及ぼしている。 我々とともに暮らす同宿生は特別に選ばれた人たちであり「政治教養」といった思想的素質、出身成分と家族背景などが優れたほうに属する若者であることは言うまでもない。 彼らもおそらく「対外事業」の名義で特別な訓練を受け、我々と接する時には厳格なルールに則らなければならない。その他にも彼らは特別な任務を遂行する。言い換えると、彼らは該当大学の担当保衛員に我々についての報告書を書かなければならない。
ある日突然、声をかけてきた謎の女性同宿生
そのため我々が彼らと本当の友人になることは不可能ではないが、とても複雑だ。だがやはり留学の真っ只中に接した若者である彼らについては、鮮やかに記憶している。 同宿生システムについてより詳しく説明すると、同宿生は現在2つの大学、金日成総合大学と金亨稷師範大学の各寮に10〜15名ずついる。 そのうち私は、金日成総合大学での経験をもとに述べる。噂では金亨稷師範大学の同宿性はそれほどエリート階層に属してはおらず、留学生たちに少し親切だときいた。そして地方にも同宿生が少しいると聞いているが、正確にはわからない。 同宿生たちはまた該当大学の本科生(学士家庭)で、専攻と学部がさまざまだ。男子の中には高等学校から直接入学した10代の青年もいるし、軍から除隊されてきた30歳近くの人もいる。 この同宿生らとは比較的に自由に交際することができる。ところが、彼らとは仲良くなっても、寮から出た後には連絡も取れず、会うこともほとんど不可能である。そして、私たちは同宿生を除く他の地元の学生と接触する機会がまったくない。これは、北朝鮮の社会統制の深刻さを示す端的な例の一つに過ぎない。 続いて、同宿生たちについての興味深い逸話と事実について述べる。彼らを保護するため、名前をはじめ特定に繋がる情報は変えている。 ユニ同務(北朝鮮で用いられる、同級生や同僚の呼称)という女性の同宿生は、1学期が過ぎた頃に初めて我々に声をかけてきた。 それがよくできたことに、我々と普段よく会話をしていた別の同宿生が、とある留学生との口論をきっかけに我々と絶交した後だった。いわば任務交替というわけだ。 私たちは実際それまで、ユニについての否定的な話を、中国人実習生たちからたくさん聞いていた……。
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金日成総合大学にて、とある女性教授とのマンツーマン授業の思い出<アレックの朝鮮回顧録8>
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金日成総合大学寄宿舎内、留学生の部屋(筆者撮影)
寄宿舎で現地人学生と一つ屋根の下で暮らせる「特権」
ところで以前も本連載で取り上げたが、在北留学生の“特権”の一つは、寄宿舎で現地人学生(同宿生と呼ばれる)と近くで暮らせることだ。今回は教授の話を一旦休んで、これについて述べようと思う。 読者もすでにご存知のとおり、北朝鮮の体制下では現地人と外国人のすべての接触が厳しく管理され、制限されている。広報用の特別「参観」を除き、外国人が朝鮮人の家を訪ねることはできない。 外交官とNGO職員をはじめとする長期滞在の外国人は現地人と隔離された文繍洞外交団地で暮らしている。だからこそ、留学生が一つ屋根の下で朝鮮の学生と暮らせるのは珍しいことなのである。 北朝鮮の人々と外国人は同じ、または非常に近くで暮らすことで互いに学べることが多い。またこれは文化交流の一形式であり双方にとってとても有益なことであると考える。それにもかかわらずやはり北朝鮮であるため、同宿生システムは一筋縄ではいかず、国の自由ではない雰囲気も影響を及ぼしている。 我々とともに暮らす同宿生は特別に選ばれた人たちであり「政治教養」といった思想的素質、出身成分と家族背景などが優れたほうに属する若者であることは言うまでもない。 彼らもおそらく「対外事業」の名義で特別な訓練を受け、我々と接する時には厳格なルールに則らなければならない。その他にも彼らは特別な任務を遂行する。言い換えると、彼らは該当大学の担当保衛員に我々についての報告書を書かなければならない。
ある日突然、声をかけてきた謎の女性同宿生
そのため我々が彼らと本当の友人になることは不可能ではないが、とても複雑だ。だがやはり留学の真っ只中に接した若者である彼らについては、鮮やかに記憶している。 同宿生システムについてより詳しく説明すると、同宿生は現在2つの大学、金日成総合大学と金亨稷師範大学の各寮に10〜15名ずついる。 そのうち私は、金日成総合大学での経験をもとに述べる。噂では金亨稷師範大学の同宿性はそれほどエリート階層に属してはおらず、留学生たちに少し親切だときいた。そして地方にも同宿生が少しいると聞いているが、正確にはわからない。 同宿生たちはまた該当大学の本科生(学士家庭)で、専攻と学部がさまざまだ。男子の中には高等学校から直接入学した10代の青年もいるし、軍から除隊されてきた30歳近くの人もいる。 この同宿生らとは比較的に自由に交際することができる。ところが、彼らとは仲良くなっても、寮から出た後には連絡も取れず、会うこともほとんど不可能である。そして、私たちは同宿生を除く他の地元の学生と接触する機会がまったくない。これは、北朝鮮の社会統制の深刻さを示す端的な例の一つに過ぎない。 続いて、同宿生たちについての興味深い逸話と事実について述べる。彼らを保護するため、名前をはじめ特定に繋がる情報は変えている。 ユニ同務(北朝鮮で用いられる、同級生や同僚の呼称)という女性の同宿生は、1学期が過ぎた頃に初めて我々に声をかけてきた。 それがよくできたことに、我々と普段よく会話をしていた別の同宿生が、とある留学生との口論をきっかけに我々と絶交した後だった。いわば任務交替というわけだ。 私たちは実際それまで、ユニについての否定的な話を、中国人実習生たちからたくさん聞いていた……。
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