2016/10/25

隣人エクハルト・ハーンさん - かたつむり・つれづれ



隣人エクハルト・ハーンさん - かたつむり・つれづれ




隣人エクハルト・ハーンさん
2014-05-31 14:46:36 | アズワンコミュニテイ暮らし


(一)遠い国の隣人

隣人といったら"近所の人"という意味だけど、エクハルト・ハーン

さんはドイツのベルリンで住んでいる。近所とは言えない。

70歳をこえて、一人暮らし。一人息子が近くに暮らしている。

ドイツというのは、ずいぶん離れた近所だ。





循環共生社会システム研究所(KIESS)の内藤正明氏の

友人であり、学問的なつながりがあった。

ハーンさんとは7年前ぐらいから、内藤さんの縁で日本に

やってきたとき、出会いができた。



4年ほど前から、来日すると、先ずアズワンコミュニテイ鈴鹿に

落ち着いて、それから全国各地に講演に出かける流れが

できてきた。



ハーンさんと気楽に呼んでいる。でも、どう呼ぶのかいいのか

迷うときもある。

講演の案内には、ハーン博士とかドルトムント大学名誉教授と

肩書きがつく。

ハーンさんは、20代から都市生態学の研究をし、環境調和型の

都市の再生のプロジェクトなどにも関わってきた。

国際的な研究機会にも参加してきている。

今はドルトムント大学で、ドイツの内外を問わず、環境調和型

の都市計画や再生の実務に当たっている人たち向けに

インターネットによる講座も受け持っている。

若き人材育成にも楽しそうに取り組んでいる。そんなに感じる。



ハーンさんは日本語は話さない。

ドイツ語と英語。英語は簡潔でシンプルで発音は聞きやすいが

それでも英語が堪能でないぼくらは、ちょっと込み入った会話を

するのは、難しい。

アズワンに暮らしながら、KIESSの活動をしている片山弘子さんが

通訳をしてくれている。



通訳があるから、通じ合っているかといえば、ちょっと

もどかしいところもある。コトバでなく、通じ合っていると

感じるときもある。



ハーンさんにとって、あたらしい発見があると、満面に笑みをうかべて

「やあー、それはおもしろい!」と子どものように感動する。

世間話のような場面でも、相手の話には、じっと耳を傾け、話が終わる

まで聞き取ろうとする。ハーンさんの気さくな人柄が現われている。




     (二)”ハートセンタ”ーとヨット転覆

今年は5月14日朝、セントレアに着いた。

北川道雄さんと片山弘子さんの二人がフェリーで来るハーンさんを

迎えに津なぎさ港に行った。



その夜、コミュニテイハウス江口宅で食事をしながら、一年ぶりの

旧交を温めた。



「何が驚いたって、弘子さんが北川さんと結婚したというのにびっくり

するやら嬉しいやら」とハーンさん。

ハーンさんの話を聞いていると、熟年の「結婚」ということもあるが、

弘子さんの変わりぶりに、何かを感じているようだった。



「アズワンコミュニテイにある、”ハートセンター”、これが大きかった

んだね。コミュニテイで”こころ”を大事にする仕組みがあるという

のが分かった。素晴らしい」

鈴鹿に向かう車中で、弘子さんが”ハートセンター”(アズワンでは

コミュニテイCOCOROセンターと呼んでいる)で話を聞いてもらい

ながら、結婚にまでいたった経過を聞いているらしかった。

ハーンさんは、来日して各地を回るときは弘子さんが通訳と

して同行することが多かった。

ハーンさんとして、弘子さんの内面に迷いのようなものがある

のを感じていたんだろうか。

すっかり晴れ晴れとした弘子さんを目の前にして、弘子さん

個人のこの一年の変わり映えとともに、アズワンコミュニテイと

いうものどんなものかに関心が向いたようだった。




「一年で変わったといえば、ぼくの場合、息子と話ができる

ようになったんだ」とその顛末を語ってくれた。嬉しそうだった。

ハーンさんは、若いときからヨットに乗ってきた。ヨットに息子を

誘ったら、「行く」というのでバルト海に出たのはいいが、嵐に

遭い、島の近くでヨットが転覆。

たまたま島から見ていた人がいて、危ういところを救助された。

「冷たい海で息子と生死のあいだを彷徨った」

ハーンさんと息子さんのあいだに、それまでどんなドラマが

あったか、分からない。それぞれの内面世界で氷解するもの

があったのか・・・

こんなしっとりと胸の内を明かしてくれたハーンさんは初めて

だった。





    (三)来年は息子と訪ねたい

鈴鹿で一泊した翌日、アズワンコミュニテイの見学をした。

ハーンさんを迎えて、アズワン見学は恒例の行事になっている。

今回の見学では、”ハートセンター”というような仕組みを

暮らしの中に根付かしているコミュニテイがどんな背景のもとに

営まれているか、そこを知りたいと焦点がはっきりしているよう

だった。

小野雅司さんがサイエンズ研究所のリーフレットを見せながら、

アズワンコミュニテイの社会的なベースの説明をした。






○サイエンズ研究所・・・本来の人間性の探究・社会構成の探究。

   やってみて、どうか。本来の目的から外れていないか観察・

   検討・研究・検証。

○サイエンズスクール・・・一人ひとりが自分の内面を観察して、

   自分の中にある本来の人間性に気づき、人生の目的を

   知り、そういう自分として日々の暮らしやコミュニテイを

   営んでいったら、どんな社会が現われてくるか。

   人と人の間柄がやさしく、シンプルになっていかないか。

 ○コミュニテイ・・・一人ひとりが幸福に成り合っていき易い仕組み・

    運営を研究所の研究成果をそれぞれの自由意志で汲み取り

    ながら、日々の暮らし、産業活動、文化活動など営んでいく。

    最近では、コミュニテイオフィス・ファミリー・贈り合いの

    コミュニテイストアが一人ひとりの間で息づいて、きつつある。








ハーンさんはときどき質問しながら、じっと聞き取ろうとしていた。

「すばらしい!」と感嘆の声。

「来年は息子といっしょにアズワンを訪ねたい」とハーンさん。

アズワンの仕組みについて、これまで説明してこなかったわけ

ではない。

今回はハーンさんの心の奥のほうに響いたように見えた。



    (四)セイリングシップモデル

ハーンさんと出会ったはじめから、これからの人類の進むべき

方向について、「タンカー」と「ヨット」の画像を示して、どっちに

向かっていくのでしょう、と問いかけをしていた。



5月24日にあったHUB Kyoto & KESS主催の「Community

Makes SusutenableScietyーー鈴鹿で、ドイツで、そして私たち」

フォーラムでも、ハーンさんはこの観点から切り出していた。

ハーンさんは「セイリングシップモデル」と表現して、未来の

都市の姿が今に現われている先進的な事例を丁寧に紹介して

くれた。

「セイリングシップモデル」の要点は

  ・人間性 

  ・人間と自然との関係 

  ・人と人との関係

だという。

都市生態学とか都市空間の再生とか、ハーンさんが長年

取り組んできた研究は、机上の理論にとどまらず、実際に

ドイツ各地で起きてきたまちづくりプロジェクトに、行政・

市民とともに、話し合い、理解しあって、その実現に努力して

きている。



そのときのハーンさんの心している核心のようなものが

そのコトバのなかにあるのではないか。



   (五)集合住宅暮らしの行方

「ドイツでは市民の手で、未来にむかっての都市空間の外観は

見通しがよくなってきています。ただ、心の面を取り上げている

コミュニテイの活動は見当たりません。アズワンさんがこれからの

モデルになるのではないでしょうか」

講演の最後に、そんなことを付け加えることがあった。



帰国前日、コミュニテイハウス江口宅で送り出し晩ごはんを

食べながら、日本滞在のよもやま話に花が咲いた。



「夕方の温泉は最高だった!」と第一声。

「ハーンさん、温泉好きなの。2時間、平気で入っている」

と弘子さん。






「温泉に行く前に、オフィスとファミリーの話をじっくり聞けた。

ファミリーが一つの経済でいとなまれる仕組み。すばらしい。

先進的だし、人間性に適っている。」とハーンさん。

その話合いに参加していないので、内容は分からないが、

ハーンさんの中では、これまで研究してきたことの、その先が

さらにはっきり見えてきている、そんな喜びがあるようだった。

これは、ぼくの感想。




「ドイツで集合住宅のプロジェクトにかかわってきている」

とハーンさん。

「日本では、江戸期にあった長屋みたいなもの?」

「200人が住める規模の住宅というイメージ」

「マンションみたいな?」

「その建設をする前から、それを出資して、作ろうとする住民が

先ずいる。その人たちが、どんな住宅にするか、それぞれが

描いていることを出し合いながら、それぞれの願いが実現

できるように設計・建設していく」

「そこの人たちで、人間関係でトラブルはないのだろうか?」

「まだ、出来てから7年ぐらいで、一応自分たちで作ってきた

というのがあるので、問題はないようだ。でも、この先は、

分からない。観察してるんだあ」とハーンさんが、ニッコリ。

ぼくらも、聞いて和やかな気持ちに・・・。






日本にもコレクテイブハウスという試みがある。

先ずそういう仕組みや施設があり、そこを希望する

人たちが入居して、個人や家族の自由をベースに

コミュニテイの暮らしを営めるという。

人と人が規則や取り決め、当番制などが無くて、円滑に

社会生活が営めるか。とても面白い社会実験だろう。





実をいうとハーンさんの都市生態学や空間計画の研究と

アズワンの「やさしい社会の試み」が何処で接点ができる

のだろう、とこの数年、思い続けてきた。

今回、なにか手がかりが出来たんではないか。

いま、ブラジルにいるスイス・ドイツ生まれの人たちが

ポルトガル語に訳してある「やさしい社会」の本を

ドイツ語に訳して、ハーンさんに贈る計画が進んでいる。

「やあ、楽しみだ」ハーンさんの弁。