2021/03/29

創価学会とキリスト教に共通点? 「世界宗教化のプロセスが似ている」と佐藤優氏 (1/5) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

創価学会とキリスト教に共通点? 「世界宗教化のプロセスが似ている」と佐藤優氏 (1/5) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)
創価学会とキリスト教に共通点? 「世界宗教化のプロセスが似ている」と佐藤優氏






2020.11.12 08:02AERA







佐藤優(さとう・まさる)/作家・元外務省主任分析官。『創価学会と平和主義』『危機の正体』『ウイルスと内向の時代』『世界宗教の条件とは何か』など著書多数。2020年の菊池寛賞を受賞(撮影/楠本涼)







澤田瞳子(さわだ・とうこ)/作家。2010年、『孤鷹の天』でデビュー。『満つる月の如し 仏師・定朝』で新田次郎文学賞受賞。『若冲』『火定』『落花』『能楽ものがたり 稚児桜』で4度の直木賞候補に(撮影/楠本涼)







池田大作研究 世界宗教への道を追う

佐藤 優

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 作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏の、AERAでの連載を完全収録した書籍「池田大作研究 世界宗教への道を追う」が発売された。連載を振り返り、筆者の佐藤氏と作家の澤田瞳子氏が語り合った。AERA 2020年11月16日号の記事を紹介する。

【写真】作家の澤田瞳子氏はこちら

*  *  *
佐藤:こんな長い本を読んでいただきまして、ありがとうございます。

澤田:知らないことだらけでした。読ませていただき、このテーマにずっと関心をお持ちだったんだなと感じました。

佐藤:結構長いんです。本格的にこのテーマに取り組んでから10年くらいになります。

澤田:池田大作氏の著作、多いじゃないですか。それを把握するだけでも大変でしょうに。

佐藤:そう。でもね、全集があるんですよ。『池田大作全集』全150巻。全集に収まっていないもので重要なのは、『新・人間革命』。これが30巻31冊。そのテキストをベースにすれば、大体のことはわかるんじゃないか、と。

澤田:なるほど。

佐藤:創価学会のことを書こうとなると、だいたいみなさんは、取材を中心にやっていこうとするんですね。そうすると、学会の中の人は話せることに限界があるし、やめた人の中には「恨み骨髄」みたいな感じの人もいる。だから、こういうときには大量の公式の文書をもとにしようと。私が外務省時代、ソ連やロシアの情勢を分析するときは、公開情報を中心に読んでいく「オープンソースインテリジェンス(公開情報諜報)」というやり方を使いました。それでやってみようと思ったんです。

澤田:歴史学においては、遠い時代ほどちゃんとしたテキストから分析でき、近い時代になればなるほど、いろんなことにゆがみが生じるのですが、それと一緒ですね。

佐藤:似ています。私の指導教授の一人で、藤代泰三先生(故人/歴史神学)という方がおられたんですけどね。この先生は、私がチェコスロバキアの社会主義国家と教会の関係を研究すると言ったら、「やめたほうがいい」と言うんです。新しすぎる、歴史記述というのは50年前でやめないといけない、本当は100年ぐらい前でやめたほうがいいかもしれない、と。そうじゃないと、その関係者が生存してるから、と言うんですね。

澤田:わかります。

佐藤:藤代先生は、お弟子さん、あるいは子どもとか孫とかが生存していると、そこへの配慮とかそこから入ってくる情報でゆがむんだとおっしゃるんですよね。しかし、私は言い返した。先生の本って10年前のことぐらいまで書いてあるじゃないですか、と。すると、「僕が現実への関心が強いので、それは僕の限界なんです」って、藤代先生はおっしゃられた。

澤田:なるほど。でも、人とか社会とか、すごく身近なものをやりたいと思えば思うほど、ちょっと遠い話に焦点を合わせたほうがいいというのは、逆説的ですけど、面白いですね。



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■世界宗教化のプロセス キリスト教と似ている


佐藤:この『池田大作研究』を出したことで、誰と対談をやりたいかとなったときに、僕は一番に澤田さんにお願いしたいと思ったんです。文学を専門とする人と対談したかった。創価学会が支持母体となっている公明党は与党の一角を握っているから、政治的な立場が濃厚な人だと、無意識的であれ意識的であれ、その立場が出ちゃうから、「テキスト」として読んでもらえないと思ったんです。


澤田:確かに。私は100%「テキスト」だと思って読みました。


佐藤:「テキスト外」のところで評価されてしまうと、創価学会におもねっているんじゃないかとか、逆に学会の外の人間である者がなんでこんなものを書くのかとか、いろんな意見が出てくると思う。そのときに、「テキスト」をしっかり読んでくれる人と話をしたいと、こう思ったんです。


澤田:佐藤さんは、本当に宗教的に興味があって、これを書かれたんだなというのが、よくよくわかりました。


佐藤:そうなんですよ。僕はキリスト教徒で宗教が違うがゆえに、創価学会員にとって大切なものがわかるわけです。我々、キリスト教徒にとっても大切なものがあり、そこを侮辱されるのは嫌です。それと同じことだなと。


 創価学会が世界宗教化しているというのは本物なんだということも描きたかった。壁を破壊して、社会革命や政治革命を行うということじゃなくて、人間は変化する可能性があるから、壁の向こう側に価値観を共有する人材を作って送り出していく。そのプロセスが面白かったんですよ。キリスト教が世界宗教化していくときのプロセスに似てるなと思って。


澤田:そのお話、非常に興味深かったです。ある意味、ここで創価学会について述べ尽くされた感があるのかなと思ったのですが、明治前後に生まれたほかの日本の宗教、例えば大本(おおもと)や天理教には、関心は持たれないんですか。


佐藤:大本に関しては、高橋和巳さんがこの教団をモデルにして『邪宗門』という大きな古典的な作品を作られているから、たぶんそれを超えるような仕事ってできないと思うんですよ。そして、天理教も大本も、世界宗教的かどうかというところで、創価学会とは違いますね。その広がりがあるかどうかということ




澤田:第2次世界大戦までは、これらの宗教はよく似た場所に立っていたけれど、そのあとが随分変わってきたなというふうに思いました。


佐藤:そうなんですよね。創価学会は、池田大作という人が、牧口常三郎(まきぐち つねさぶろう)と戸田城聖(とだ じょうせい)の遺産を継承して、解釈し、行動していく過程で変わっていったと思います。そして、本来は出身母体であったはずの日蓮正宗とも大戦争になった。世界宗教になる上で、自分たちの母体から抜け出していかないといけないというのは、私には、ユダヤ教からスタートして、ユダヤ教から抜け出していかざるを得なくなったキリスト教と酷似していると思いました。ただ、論壇にはある種の創価学会タブーがあるでしょう?


澤田:まず、宗教団体として大きく、そして政治に結び付いているように見える。この2点でほかの宗教団体と違うのかもしれません。


佐藤:ただ、神社本庁だって、政治と結び付いているわけですよね。


澤田:ええ。個人的な感覚でいうと、池田大作さんというご存命の方と、宗教、その信仰的なことが結び付いているという点が、特別に見えるのかもしれません。


佐藤:なるほど。僕は既成宗教と新宗教を分けて、新宗教だからいかがわしいみたいに思うっていうのは嫌いなんです。キリスト教も、スタートは新宗教ですから。そういうところに偏見を持ってはいけないと思うんですよね。


 ただ、なぜここまでの力が創価学会にあるのかというところに関心が強かった。戦時下の創価教育学会(創価学会の前身)っていうのは、国と非常に距離があって、弾圧された。その結果、創価学会初代会長の牧口常三郎は獄中死しています。そこからのスタートだから、「おのれ権力」という発想になるはずで、ある時期まではそうだった。それが途中からは、ただ反体制ではなく、むしろ体制化していく。ただし、体制に取り込まれてしまったわけではない。その部分が面白かったんです。キリスト教に似ています。


■発展して変化しよう その意思が内側にある


澤田:そういうところも含めて、実は創価学会って非常にフラットだと、この本を拝読して知りました。いつまでも恨むとか、そういうことを引きずらないというのを、まさに体現しているのかなとも思いました。


佐藤:僕もそう思うんですよね。今回の組閣で考えてみても、(小選挙区で2度も公明党の山口那津男氏を破った)平沢勝栄さんが自公連立政権の閣僚で入ってるっていうのは、ある意味びっくりしました。別に、まあ過去は過去だと。本人もまずかったなと思ってるんだから、いいんじゃないでしょうかぐらいの感じですからね。





それから、この本で扱った中で面白かったと思うのが、藤原弘達さんです。藤原弘達という人が、創価学会や田中角栄の圧力に屈せず、言論を守った人だって言われてきたんだけれども、実は去年出版された志垣民郎さんの『内閣調査室秘録』の中において、藤原さんが内調との関係が非常に密接だったということが出てきました。


 私自身、過去にやってきた仕事と合わせて、皮膚感覚でわかるんですよ。なるほど、こういうことって国家ってやるからな、と。だから、あのときの創価学会の力は国家にとって相当の脅威だったわけですね。


澤田:国家にとって創価学会は、あんまり経験したことのない団体だと思うんですよね。


佐藤:そう思います。創価学会の面白さや謎というのはそこなんです。今でも創価学会って、国家もよくわからないところがあると思う。それはやっぱり、宗教と政治っていうものが重なるところもあれば、重ならないところもあるということ。


 それから、創価学会もいま過渡期にきている。2014年という年が、実は創価学会にとってすごく大きい年だったと僕は思うんですよ。一つは、公明党の結党50年で、再び池田大作氏の名前と顔が出てきた。これ、唐突なんです。それまで出てこなくて。公明党の50年党史で突然出てくるんです。


 それと同時に、教義条項の改正というのがあって、大石寺(たいせきじ)にある本尊との関係を断ち切るということをやったんですよね。翌年に、この教義条項をどういうふうに読むかっていうことで、江戸時代に日寛という非常に重要な指導者がいたんですが、この「日寛教学」の見直しに入る。それから「勤行要典(ごんぎょうようてん)」という、彼らが朝晩祈念する文章の中に、牧口常三郎、戸田城聖、池田大作っていう3人の名前が入った。そしてそのあと、創価学会の憲法に相当する「会憲」を作り、創価学会インタナショナル(SGI)のネットワークとしての位置付けを整備する。その基点が2014年だと私は見ています。





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それとともに、公明党の人が創価学会の話をするようになってきた。創価学会の人も、政治の話をストレートにするようになりました。それまでは、公明党の会合に行くと創価学会のことは言わない。池田大作氏のことは言わない。政教分離を徹底するんだっていうのがありました。実は、政教分離というのは、国家が特定の宗教を優遇したり忌避したりすることを禁じるもので、宗教の側から政治に関与することは構わないんだけれども、創価学会も、言論問題以降、過剰に抑制しているところがあった。それがオープンになってきたっていうのも面白いなと。


澤田:確固たる宗教を持たない一般的日本人からすると、宗教とは既にでき上がっているもので、教義も今から変わるものではないと感じがちなのですが、今のお話を伺うと、いまだに変わり続けて、発展して変化していこうという意思が内側にある。面白いですね。


佐藤:面白いと思います。変わらないために変わるというところがあるわけですよね。この本の最後は会憲でまとめたんですけれど、その意味において、この会憲で創価学会は宗教として完成したと僕は見てるんですよ。


澤田:私、最初に面白いと思った歴史小説ってヘンリク・シェンキェヴィチの『クォ・ヴァディス』なんです。宗教が人間の歴史の中で変化していって、今につながっていくという点が、読んでいてすごく面白かったんですけれど、そういった視点でもこの『池田大作研究』を読みました。まさにキリスト教がずっとやってきたことが、第2次世界大戦中から今までの間に、ぐっとまとまって、この一冊に詰まっている。人間の歴史は幾度も幾度も同じことが重なっていくものです。だからこの先も、またどういうふうに変わっていくのかなと思いました。創価学会は完成したとおっしゃいましたけれど、キリスト教だって、いつでも改革はあります。


佐藤:それは変わっていきます。一つのベースができて、その土俵の上で変わっていくということです。


(構成/編集部・木村恵子)


佐藤優(さとう・まさる)/作家・元外務省主任分析官。『創価学会と平和主義』『危機の正体』『ウイルスと内向の時代』『世界宗教の条件とは何か』など著書多数。2020年の菊池寛賞を受賞。


澤田瞳子(さわだ・とうこ)/作家。2010年、『孤鷹の天』でデビュー。『満つる月の如し 仏師・定朝』で新田次郎文学賞受賞。『若冲』『火定』『落花』『能楽ものがたり 稚児桜』で4度の直木賞候補に。


※AERA 2020年11月16日号より抜粋