完全版 宗教なき時代を生きるために―オウム事件と「生きる意味」 (Japanese) Tankobon Softcover – April 12, 2019
by 森岡正博 (著)
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衝撃の初版から24年。オウム事件や尾崎豊の死は何だったのか。生きる意味を問うたロングセラーの名著に、書下しを増補した完全版。「この完全版の刊行によって、事件当時のことを知らない読者の方々にも、あらためて本書を手に取っていただけるようになった。きっと新たな発見があるはずである。オウム真理教事件とは何だったのか、この時代を生きなければならない私たちとは何者なのかという問いが、ふたたび生々しく立ち上がってくることだろう。また、世界的な「テロリズム」の流れの中にオウム真理教を位置づけて考えることも可能である。神の名の下に無差別殺人をしている彼らの出発点にも、きっと「生きる意味」の探求があったに違いないからだ。今日、宗教テロリズムとひとくくりにされている彼らの行動を内側から理解するためのヒントとして、本書を読むこともできるのではないか。(中略)初版の「あとがき」で述べたように、本書は私の「生命学」シリーズの第一巻となった。生命学とは、対象を研究するときに、研究している自分自身をけっして棚に上げない知の方法のことである。研究対象に自分自身もまた巻き込まれていること、自分自身も何かの意味で当事者であることから目を背けず、その当事者性それ自体を研究の対象にしていくことである。そして自分が実際はどうであったのかを自分自身に向けて語ってみるという告白方法が用いられる。そして読者に向かって、あなたはどうだったのかを自分自身に向かって問うてほしいと呼びかける。節度ある距離を保ったうえで行なわれるこのようなコミュニケーションを、新たな学の方法として提唱したのが生命学である。本書では、ぎこちないやり方であるものの、その方法を実際に試してみたのだった。」本書「二〇一九年のあとがき」より
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Product description
著者について
1958年,高知県生まれ。東京大学文学部卒。東京大学助手,国際日 本文化研究センター助手,大阪府立大学教授を経て,現在,早稲田大学人間科学部教授。博士(人間科学)。早稲田大学では現代哲学,生命倫理学,研究倫理などを教えている。著書に『増補決定版脳死の人』(法藏館)『無痛文明論』(トランスビュー)『感じない男』(ちくま新書)『まんが哲学入門』(講談社現代新書)などがある。
Product Details
Publisher : 法蔵館; 完全 edition (April 12, 2019)
Publication date : April 12, 2019
Language : Japanese
Tankobon Softcover : 256 pages
ISBN-10 : 4831857068
ISBN-13 : 978-4831857064
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NOAK
5.0 out of 5 stars 自分にスカを引かせた世間への報復
Reviewed in Japan on July 23, 2020
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個人的な話から入って恐縮だが、私は高校は偏差値70の進学校だった。だが、勉強
がパターン暗記に偏っていて、それを辛いと教師に告げたら「習慣にしろ」と云われた。
ここで3年、青春を犠牲にすれば、将来、社会的地位(スクールカーストの延長のような
モノだ!)は手に入るかもしれないが、本当に今の感受性の最も鋭い時代に、自分の
本当にやりたい哲学や詩文学などの読書や恋愛をせずにマトモな、嫉妬からリア充を
逆差別するような世間の大人とは違う存在になれるのだろうかと思惟した。習慣にしろ
というのは思考停止しろと云っているようにしか思えなかった。入り口の段階で非精神的
な暗記作業を強いてくる社会の―大人の云う「上の」ステップに、輝かしい未来がある
とは思えなかった。そこで、私は勉強するのをやめた。
それから大人になって、社会的地位など当然ないが、哲学や詩文学に耽溺したり、燃える
ような恋愛に興じたときのトランス状態の非日常は、10代にしか生きられない数少ない
「正解ルート」であり、当時勉強していればよかったと思うどころか、あそこで努力と
いう美名の下でなされるゴリ押しの勉強をしていたら、俺はスカを引いていたな、と今
からだと分かる。
オウムの信者というのは、そのスカを引いてしまったエリートの集まりなのだと本書を
読んで分かった。
勉強して褒められて、その先に輝かしい未来があると、皮肉にも私などより学力があった
せいで彼らは錯覚してしまった。世間の人たちは、人を評価するとき必ず、認めて「やる」
といった、受け手本位の評価しかせず、彼らが内心嫉妬と畏れで一杯の、突出した天才は
頑なに評価しない。スカを引いたエリート達は、本当は勉強が出来る程度のことでは人
から本当に凄いという評価はされないことに気付くことなく、大学より先へ行ってしまった。
そこで彼らは世間の人を「自分をハメた」と憎悪しなかっただろうか?
サリンをばら撒くという行為は、自分にスカのような人生を引かせた世間への、エリート
達の報復であったように個人的に思えてならない。少なくとも、勉強が出来て社会的な
地位を得て、食うのに困らなければ幸せだという価値観は、彼らのような存在を生み出す
元凶だという意味で決定的に危険であるといえる。世間のどうでもいい大人から認められ
るのでなく、自分なりの人生の成功条件を自分の本当に切実な願望と向き合って早期に
設定し、勉強は疎かになっても、青春期にそれを達成することが、本来的な意味での通過
儀礼の筈だ。
宗教でない精神的な生き方を著者は推奨しているが、それは私も賛成である。ランボー
よろしく山奥を一人で放浪していた時など、これ以上ないトランスの極北に到達していたが、
そういう超自然的な力が降りかかる状態をもってしても<ここではないどこか>へは行け
ない、つまり救済はあり得ないと気付いたからだ。絶対的な答えがない状態で必要なのは、
それを前提とした自分なりの答えだろう。それには冷徹な思考能力が絶対条件だ。信じる
ことでトランス状態を引き出す作用はあるが、原則的に思考停止はすべきでないし、そう
なると宗教より哲学が必要だという結論になる。
あと、自分も数学が好きだったが哲学に関心は移っていったのだが、著者が数学や科学は
実験で再現可能な事象を扱うので、生の一回性の様なモノは扱えないし、人生の真理を
教えてくれるものではないというようなことが書いてあって、腑に落ちた。いい説明だと
思った。
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ちひ
5.0 out of 5 stars 圧倒的に自覚的な無宗教の立場から、それでも宗教について考える本。
Reviewed in Japan on April 30, 2019
オウム真理教の地下鉄サリン事件(1995年)等を受け、1996年に発行された同名書籍の【完全版】。「完全版のまえがき」と「2019年版のあとがき」が書き下ろし。
自分の宗教性に無自覚なことを指して言う「無宗教」ではない、圧倒的に自覚的な無宗教の立場から、それでも宗教について考えている本である。
臓器移植の問題について考えていた時期に、森岡さんの代表作の一つである『脳死の人』に出会い、多大な影響を受けた。その後も、人知れず自分の信に悩んでいた時期に本書の最初の版に出会い、感動し、講演会でサインをいただいた。「僧侶です! 感動しました!」と言うと、困ったような顔をされたのを覚えている。もっとも森岡さんはいつも困ったような顔でほほえまれるようなのだが。
そして、わたしも信と非信との間に何ものがあるのか、この本のアプローチと同じような方法で、一生懸命に考えていたはずが、……いつの間にか、すっかり信の方に来ている自分がいる。自分でも驚くほどに。
仏教的あるいは真宗的に言えば、どんな縁で自分がどう変わるのかは本当に誰にもわからない、ということでもあるのだが、それを自分が地でいくとは想像もしていなかった。しかしこれはわたしにとって、まさに森岡さんの提唱する「生命学」の営みでもあったのだと思う。
信は決して「大きなものにまかれる」ということではない現象だとわたしは思っている。が、そこに疑問というか、解決されていない(され得ない?)何かがあるという指摘を、森岡さんは緩やかにくださっている。
とにかく、今回の【完全版】とともに、信について、また深く広く、えぐって集めて、考えてみたいと思っている。あまり「無口」にならないように。
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ゆうさく
5.0 out of 5 stars いまでも通じることはある意味で不幸だけれど
Reviewed in Japan on January 22, 2020
読了しました。森岡さんの主要な著作をだいたい読んでいる自分としては、彼の思想の前提みたいなものを確認したような感じがします。
興味深かったのは、神秘体験とグルへの帰依は別のものだということ。それを自身の体験から書いていて説得力がありました。
神秘体験そのものが一般的に特別なものとして考えられていますから、「この神秘体験は私についていくことで得られるのだよ。」「この先に真理があるのだよ。」と言われたらどんなに知性が強靭な人でも、いや、知性がある人ほどに、逆にすっぽりと飲み込まれてしまうのでしょう。
そして、尾崎豊の死を、イエス・キリストの死と重ね合わせている後半の論も見事です。彼らは人々の罪を贖って死んでいったのです。単なる知的な分析ではない深い見識に唸らされました。
この考え方で行けば、麻原も、教団の内部からの圧力によっておかしくなっていったと考えられるわけで、その構造に問題からも考察しなければいけません。
この本では言及されてませんが、ヒトラーの誕生も同じような切り口から考えられると思います。少なくとも社会が生み出したという点では。
改めて森岡さんの、徹底的に自分自身を掘り下げながらものを書いていく真摯さに心を打たれました。なお、わたしがいちばん好きな著作は「無痛文明論」です。
生きる意味を求める人たちの哲学が、今後も深化されていくことを願います。
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スターライト
5.0 out of 5 stars 参考になりました
Reviewed in Japan on August 9, 2019
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1995年に出版されたものを新たに「完全版」として2019年4月に再刊したものです。
新たに「完全版へのまえがき」と「2019年のあとがき」が追加されています。完全版へのまえがきにおいて、早稲田大学理工学部を主席で卒業した広瀬健一(元死刑囚)のオウム真理教に入った理由が「生きる意味」だった事を知り、衝撃を受けました。
生きる意味がそれほどに、人によっては生死を分かつほど重要な問いになり得るということを実感しました。
本文としては、著者の若い頃の経験を踏まえながら語っているため、より説得力や読みごたえのある文章でした。
ただ生きる意味の答えとしては…少し物足りなさを感じました。しかし、一つ一つの文章に表れている著者の人としての謙虚さは、よく伝わってきます。
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