3. 宗教的なもの
“目に見えないもの”を信じるか
最後に,“目には見えないが,宗教上は存在
すると考えられているもの”(以下は,“宗教的な
もの”と表記)について,人々がどう考えている
のかについて見ていく。
調査では,「祖先の霊的な力」「死後の世界」
「輪廻転生(=生まれ変わり)」「涅槃(ねはん
=悟りの境地)」「天国」「地獄」「宗教的な奇
跡」の7つの“宗教的なもの”について,「絶対
にある」「たぶんあると思う」「たぶんないと思
う」「決してない」の4 段階
で答えてもらった。
図7に,「 ある」(「 絶 対
に」+「たぶん」)と答えた
人の割合を示した。「ある」
という人が最も多かったの
は,「祖先の霊的な力」の
47%で,ほぼ半 数となっ
ている。「死後の世界」は
44%,「輪廻転生」は42%
の人が「ある」と考えてい
る。また,「涅槃」「天国」
「地獄」についても,3割
程度の人が「ある」と答え
た。すべての項目につい
て「ない」と答えた人はわ
ずか14%で,ほとんどの人
は,こうした“宗教的なも
の”の存在を少なくとも1つ
は「ある」と考えていること
がわかる。
7つの項目のうち,「輪廻
転生」「涅槃」「祖先の霊的
な力」については,今回の
調査から新たに加わったも
のである。1998 年との時
系列比較が可能な,「死後
の世界」「天国」「地獄」「宗
教的奇跡」の4つについて
見ると,「死後の世界」は
37%から44%に,「天国」
は31%から36%に,「地獄」は26%から30%
に,いずれも「ある」と答えた人の割合が増加
した。「宗教的奇跡」では変化が見られなかっ
た。“宗教的なもの”を信じる人は,10 年前に比べてやや増えている。
図8は,「ある」という人が比較的多かった3
つについて,性年層別に示したものである。「祖
先の霊的な力」「死後の世界」「輪廻転生」の
いずれも,若い年代の人ほど「ある」と考える
人が多く,年齢が高くなるほど少なくなってお
り,年代によって意識の違いが見られた。また,
16〜29歳,30〜39歳,40〜49歳 で は, 男
性より女性のほうが「ある」という人の割合が
高い。とくに30〜39歳では,女性が7割以上
を占めるのに対して,男性は4割前後となって
いる。
図8と,先に紹介した図1(「宗教を信仰し
ている」人)や図5(仏壇を「毎日」+「ときど
き」拝む)とを比較すると,グラフは逆の傾き
となっている。
今回の調査結果からは,若い人の多くは,
宗教を信仰しているわけではないのに,「霊
魂」や「あの世」などの“宗教的なもの”の存
在は信じている,一方,高齢者は,信仰を持
ち,ふだんから仏壇を拝んではいるが,“宗教
的なもの”の存在はあまり信じていない,とい
う傾向が見られた。信仰があれば,“宗教的な
もの”を信じるというわけではないようである。
宗教学が専門の島薗進東京大学教授は,日
本人と宗教との関わりについて,「『無宗教』と
いわれることの多い日本人だが,実は広い意
味での『宗教的なもの』やスピリチュアリティに
通じるような感受性や考え方を心に包み込んで
いる」と述べている4)
。
特定の宗教を信仰しているわけではなくて
も,目に見えないものの力を信じたり,心のよ
りどころにしたりする人は,かなり多いのかも
しれない。