2022/05/18

宗教的なもの

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3. 宗教的なもの
“目に見えないもの”を信じるか
最後に,“目には見えないが,宗教上は存在
すると考えられているもの”(以下は,“宗教的な
もの”と表記)について,人々がどう考えている
のかについて見ていく。
調査では,「祖先の霊的な力」「死後の世界」

「輪廻転生(=生まれ変わり)」「涅槃(ねはん
=悟りの境地)」「天国」「地獄」「宗教的な奇
跡」の7つの“宗教的なもの”について,「絶対
にある」「たぶんあると思う」「たぶんないと思
う」「決してない」の4 段階
で答えてもらった。
図7に,「 ある」(「 絶 対
に」+「たぶん」)と答えた
人の割合を示した。「ある」
という人が最も多かったの
は,「祖先の霊的な力」の
47%で,ほぼ半 数となっ
ている。「死後の世界」は
44%,「輪廻転生」は42%
の人が「ある」と考えてい
る。また,「涅槃」「天国」
「地獄」についても,3割
程度の人が「ある」と答え
た。すべての項目につい
て「ない」と答えた人はわ
ずか14%で,ほとんどの人
は,こうした“宗教的なも
の”の存在を少なくとも1つ
は「ある」と考えていること
がわかる。
7つの項目のうち,「輪廻
転生」「涅槃」「祖先の霊的
な力」については,今回の
調査から新たに加わったも
のである。1998 年との時
系列比較が可能な,「死後
の世界」「天国」「地獄」「宗
教的奇跡」の4つについて
見ると,「死後の世界」は
37%から44%に,「天国」

は31%から36%に,「地獄」は26%から30% に,いずれも「ある」と答えた人の割合が増加 した。「宗教的奇跡」では変化が見られなかっ た。“宗教的なもの”を信じる人は,10 年前に比べてやや増えている。 図8は,「ある」という人が比較的多かった3 つについて,性年層別に示したものである。「祖 先の霊的な力」「死後の世界」「輪廻転生」の いずれも,若い年代の人ほど「ある」と考える 人が多く,年齢が高くなるほど少なくなってお り,年代によって意識の違いが見られた。また, 16〜29歳,30〜39歳,40〜49歳 で は, 男 性より女性のほうが「ある」という人の割合が 高い。とくに30〜39歳では,女性が7割以上 を占めるのに対して,男性は4割前後となって いる。 図8と,先に紹介した図1(「宗教を信仰し ている」人)や図5(仏壇を「毎日」+「ときど き」拝む)とを比較すると,グラフは逆の傾き となっている。 今回の調査結果からは,若い人の多くは, 宗教を信仰しているわけではないのに,「霊 魂」や「あの世」などの“宗教的なもの”の存 在は信じている,一方,高齢者は,信仰を持 ち,ふだんから仏壇を拝んではいるが,“宗教 的なもの”の存在はあまり信じていない,とい う傾向が見られた。信仰があれば,“宗教的な もの”を信じるというわけではないようである。 宗教学が専門の島薗進東京大学教授は,日 本人と宗教との関わりについて,「『無宗教』と いわれることの多い日本人だが,実は広い意 味での『宗教的なもの』やスピリチュアリティに 通じるような感受性や考え方を心に包み込んで いる」と述べている4) 。 特定の宗教を信仰しているわけではなくて も,目に見えないものの力を信じたり,心のよ りどころにしたりする人は,かなり多いのかも しれない。