2016/11/12

やしの実通信



やしの実通信
『日本-その問題と発展の諸局面』(3) [2016年05月19日(Thu)]

『日本-その問題と発展の諸局面』の ”第一章 地理的特徴 ー とくにその社会的・経済的影響に関連して” では、天皇、皇室の事は触れられていない。

しかし最後の項目、「八、日本の地理の政治的国際的意義」に日本の防衛、海洋安全保障、特に太平洋に関する海洋安全保障の事が述べられている。

まずは領土について述べられている。
 「統治する能力こそが一国の国境を決める。日本帝国は、日本南部で小さな”国”として始まり、次第に北東へ広がって行った。日本が九州で一小部族国家だったころ、ロシアはなんの脅威でもなかった。拡張の各段階ごとに、新しい仮想敵国が地平線上に現れた。」(『日本-その問題と発展の諸局面』新渡戸稲造全集第18巻、2001、47頁)

そして拡張する日本国家を守ったのが日本と取り囲む「海洋」であった、というわけだ。
新渡戸は英国海軍Admiral George Alexander Ballardの書いた"The Influence of the Sea on the Political History of Japan (John Murray, London, 1921)"から引用し、日本の政治史の及ぼした海洋の影響を紹介している。

(1)強制的孤立時代、この時には海は保護防衛の手段であった。
(2)人為的有為的孤立時代、この二つの時代は合わせて十五世紀続いた。
(3)実習時代、これはたった四十年で、明治時代に始まった。
(4)海軍拡張、これが現代である。
(『日本-その問題と発展の諸局面』新渡戸稲造全集第18巻、2001、49頁)

これに対す新渡戸の分析が興味深い。

「事実としていえることは、日本民族は、地理によって課せられた障壁をものともせず、外来の影響には心温かな態度を維持し、異常な第二時代においてだけ、外人居住拒否が政策として強制されたことである。(中略)無批判の屈従でなく、心を開き、はっきりした眼をもって、日本は世界の最も進んだ思想に従い、最も進歩した国々と協同する。この知恵は、民族の遺産であり、後年にあっては、海洋に囲まれているために促進されたものである。」(『日本-その問題と発展の諸局面』新渡戸稲造全集第18巻、2001、49-50頁)

そして海洋安全保障の話になるのであるが、それは太平洋をはさむ米国と日本+アジアの枠で議論されている。

「「海洋の自由」には、国際法の狭い専門的意味以上の広い意義がある。海洋支配(Thallassocracy)こそ、膨大妄想の最も邪悪不正な形である。」(『日本-その問題と発展の諸局面』新渡戸稲造全集第18巻、2001、50頁)

理性ではなく感情で繰り返されるスローガン ー ”太平洋の支配” ”太平洋の覇権” ーを除去すること、太平洋はどの国も支配するこはできないとし、最後に下記の文章が記されている。

 「太平洋の分割ではなくて、その資源をともに分け合うことによって、海洋の価値を力で測るのではなく、奉仕によって評価することにより、敵対心によってではなく、友好心においてこそ、太平洋は、その世界大の目的の促進に寄与せしめられるのであろう。」(『日本-その問題と発展の諸局面』新渡戸稲造全集第18巻、2001、52-53頁)

現在の話ではない。1931年、85年前の新渡戸稲造の太平洋海洋安全保障政策である。