2016/10/20

スピリチュアルの冒険 (講談社現代新書)富岡 幸一郎

スピリチュアルの冒険 (講談社現代新書)富岡 幸一郎
形式: 新書|変更
-----
5つ星のうち5.0宗教源泉に立ち戻り、未来への冒険に押される。
投稿者ビブリオンVINEメンバー2007年9月17日
形式: 新書
スピリチュアルを売りにしたテレビ番組が、受けています。人みな魂が枯渇し、生命力の衰えを感じているのです。著者は、先人のスピリチュアリストの生き様と言葉とを辿り、真のスピリチュアルを明らかにし、読者が聖霊の生命力豊かな風に直にあたるように、彼らの著作に誘っています。選らばれたのは「宗教改革者」「精神改革者」。幻視や召命などで聖霊の力を信じ、既存の宗教体制に抗し、自由を求めて新たに社会で活動を始めた人達です。

○前二千年頃に、多神教の町ウルから、「唯一神」の声を信じ約束の地に旅立った人類初の宗教改革者アブラハム。○旧教に対してロシア神秘思想に近い生命の霊性を幻視したドストエフスキー。○恋愛と深い信仰の中で霊性を観た北村透谷。○旧約の預言書の中に己の人生を見出だし預言者の生涯を完遂した内村鑑三。○終戦後に荒廃した霊性の救済を考えた鈴木大拙。○敗戦を宗教上の敗北と考え、より古い神への回帰を考えた折口信夫。多様な彼らの生涯と霊性のありかたとが共響して、スピリチュアルの本質が明らかにされます。

戦後作家を、スピリチュアルの目から紹介した章が魅力的です。埴谷雄高、椎名麟三、三島由紀夫、田中小実昌の各人なりのスピリチュアルな部分が、的確な引用で語られています。同時に、前ノ陛下の人間宣言という神蒸発問題、排他的な原理主義問題などをも言及されていて、面白く読めます。

恐らくは新教徒と思われる真面目な著者のカール・バルトの紹介があり、難しい「ローマ書」のやさしい解説、対ナチズム闘争で、彼が起草した告白教会の「バルメン宣言」にも触れています。最後に、ユダヤ思想家A.J.ヘッシェルが紹介され、パレスティナ問題解決への希望が引用されています。

職業宗教家でも、超能力者でもない。しかし文学的なまた宗教的な感受性豊かな著者。彼が、文学批評の形を取って、語りかけが難しい霊性を扱う試みは、成功したようです。
コメント| 6人のお客様がこれが役に立ったと考えています. このレビューは参考になりましたか?
-----
5つ星のうち4.0霊性(スピリチュアリティ)の歴史と直観の彼方に
投稿者保武佳吾ベスト500レビュアー2007年8月13日
形式: 新書
 矮小化され硬直した現代日本人の心を解きほぐし魂の霊性(「スピリチュアリティ」)を感受することができる極限までそれを切り開こうという広範かつ深遠な射程をもった果敢な試みである。
 ドストエフスキー晩年に構想されていた未刊の書、鈴木大拙の霊性再建論、折口信夫の敗戦論から、椎名麟三、田中小実昌の文学作品まで、文芸評論家らしい文学というものに霊性を読み込む一貫した姿勢は、重すぎる歴史を背負い込むことも、安易に反文学的直観に奔ることも敢えて避けた上で、飽くまで肯定的な霊性の回復があり得ることを「冒険」として読者に親和的に示そうとしている、スリリングで友愛なエンターテイメント足らんとしている初めての書で、著者初の新書でもあり、処女作と言ってもいいのではないだろうか。
 勿論、新書という体裁からは、スピリチュアリティの逆の危険について、悪魔について、ナチズムに留まらず、古代預言者の闘っていたものから、現代の人々がイスラムの間隙に見出さざるを得ないそれらについてまでが十分触れられる訳ではない。日本人の精神が霊性に単に開かれればよいという単純なものではなく、本書の対極にある歴史と直観の双方が包含されるところまでが実は遠望されてもいることも読者はよく読み取らねばならないだろう。現代において霊性を回復することの必要を明確に再認識し、その方途が戦争とテロリズムを超えた文学という開かれた物語空間の次元において闘われ最後には勝ち獲られねばならないことを敢えて展望した闘争の書として読み切れるかどうか、それはひとえに読者自身にかかっているとも言えよう。
コメント| 3人のお客様がこれが役に立ったと考えています. このレビューは参考になりましたか?
-----
5つ星のうち4.0精神探求の歴史を学ぶ
投稿者ようよう2011年11月27日
形式: 新書
ラテン語のスピリトゥスに由来するスピリチュアリティが持つ意味には「息」と「霊感」がある。
私たちが呼吸する大気は物理的に実在するものだが見えない。
大気がなければ生きていくことはできないため「息(スピリット)」によって支えられている。
最初の人間であるアダムには命の息を吹きいれられて人間となった。
精神探求の歴史を学ぶことができる。
コメント| 1人のお客様がこれが役に立ったと考えています. このレビューは参考になりましたか?
はい
いいえ
違反を報告
5つ星のうち4.0スピ本?
投稿者ソコツベスト500レビュアーVINEメンバー2007年8月2日
形式: 新書
「スピリチュアル」とタイトルにあるが、オーラとか癒しとかヨガとか守護霊とかの現代的な話題とは基本的に関係がない。テーマ批評的な文芸評論である。むしろ、やたらめったら「神」がどうのこうのと述べているので、「宗教」からは一定程度の距離をとるのが通常のスピ系の文化とは一線を画すといってよい。ユーザー(=読者)は重ならないはずである。
いちおう「スピリチュアル」の語源を分析してから、そのあとユダヤ教の発生にその歴史的あらわれの始原を見出し、キリスト教に強く関連した宗教者や作家の創造した「文芸」に関する解釈を行いながら、この霊的現象の真価を問うていく。論じる対象の選択が恣意的であり、要は著者のお気に入りの文章を遺した人びとの仕事をほめたたえたいだけなのではないか、と最後まで思ったし、また私は一神教徒ではないので著者の「神」を信じる者たち対する熱意には全く共感できなかったが、引用される文章はどれもそこそこいいので、それなりに楽しめた。
が、この「スピリチュアル」というこなれていないハヤリ言葉を無批判的に使いまくって「文芸」を論じることに対する羞恥心はこの中年の評論家にはないのかと、割と文芸評論の好きな読者の一人としては、疑問に感じた。
コメント| 5人のお客様がこれが役に立ったと考えています. このレビューは参考になりましたか?
-----
5つ星のうち4.0それをどう呼ぶにせよ
投稿者よれよれのオヤジ2007年8月15日
形式: 新書
富岡さんとおっしゃるこの本の著者の書かれるものは、共感できることが多くて好きです。で、話をスピリチュアルなことに絞ると、それがどういうものか実感として少しは知っています。こういうのは自己申告であって、全く実証できないし、ひとに見せることもできないのですごくやっかいです。「おまえの言っているスピリチュアルなんて本当のスピリチュアルと違う」と言われた場合、返す言葉なんてないのです。ああ、面倒くさい。だから、どうしてもそれがどういうものか知りたい人には、次のことをお勧めします。1)うんと高い木の上のツリーハウスを見つける(日本でも探すと色々な場所にあります)2)一晩そこで過ごす3)夜中にふと目覚めて空の星の多さにびっくりする ここまで簡単にたどりつける人は、よい友達とよい人生にすでに出会っているでしょうから、本はもう読まなくていいです。
コメント| 3人のお客様がこれが役に立ったと考えています. このレビューは参考になりましたか?
----