2022/12/15

CaNoW 願いカナウ 【患者さん・高齢者・障がいをお持ちの方の願いを叶えるエムスリー株式会社のプロジェクト】 伊東英明主演でドラマ化、医師の心も癒す臨床宗教師とは?

CaNoW 願いカナウ 【患者さん・高齢者・障がいをお持ちの方の願いを叶えるエムスリー株式会社のプロジェクト】 伊東英明主演でドラマ化、医師の心も癒す臨床宗教師とは?




伊東英明主演でドラマ化、医師の心も癒す臨床宗教師とは?

この記事は、2020年1月26日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol. 11 伊藤英明主演でドラマ化、医師の心も癒す臨床宗教師とは?」のタイトルで掲載されたものです。


https://youtu.be/SOoLlC7EPe4


「臨床宗教師」とは、被災地や医療機関、福祉施設などで被災者や患者に心のケアを提供する“宗教者”のこと。布教や伝道を目的とせず、対象者の価値観を尊重しながら苦悩や悲嘆に寄り添う活動を続けています。欧米のチャプレンに相当するこの役割に「臨床宗教師」と名付けたのは、東北大学医学部で臨床教授を務め、緩和ケア医として活躍した故・岡部健先生。養成開始から9年を経た2020年、ドラマ「病室で念仏を唱えないでください」の監修にも関わるなど、注目度の高まる臨床宗教師の活動についてお話を伺いました。

【お話を伺った方】
東北大学大学院文学研究科
死生学・実践宗教学専攻分野
実践宗教学寄附講座 教授
高橋 原 先生

同 准教授
未来型医療創造卓越大学院プログラム
スマート・エイジング学際重点研究センター
谷山 洋三 先生
東北大岡部医師の考案でスタートの臨床宗教師、ドラマ化も

───臨床宗教師とは?

高橋先生
臨床宗教師は、被災地や医療機関、福祉施設などの公共空間で、心のケアを提供する宗教者のことを指します。布教や営利は目的とせず、宗教者としての経験を活かし、対象者の苦悩や悲嘆に寄り添う役割を担っています。2011年に、東日本大震災で被災者のケアにあたった東北大学の医師 岡部健先生の考案で「臨床宗教師」と名付けられ、養成がはじまりました。2018年には日本臨床宗教師会による資格制度がスタート、全国で約200名の臨床宗教師が活動しています。

───どんな方が受講できるのですか?

高橋先生
臨床宗教師の認定には、大前提として宗教者である必要がありますが、一般の方が受講できるプログラムも開講しています。たとえば当研究室の「臨床宗教実践講座」は現在、3名の看護師が受講されています(2019年12月現在)。

───1月には僧侶 兼 医師を題材としたドラマ「病室で念仏を唱えないでください」もスタートし注目が集まっています。実際、医師は臨床宗教師になれるのですか?

谷山先生
じつは3名だけ 、医師免許を持った臨床宗教師が存在します。うち1名は現在も病院で勤務中です。ただ実際には、医師と宗教者、異なる役割を持つ仕事を両立することは難しいかと思われます。

じつは私も原作マンガを読み「このままではまずいな…」と考えていたのですが、プロデューサーさん(ドラマ『コウノドリ』『ブラックペアン』等を手掛ける)から連絡をもらいまして。「関係者からクレームがつかないようなドラマにしたい」とおっしゃるので、私も“チャプレン監修”として少しだけ設定に注文をさせていただきました。

───主人公(僧侶 兼 救命救急医)は、袈裟(けさ)で院内をうろつき、ときに患者さんを殴るような破天荒なキャラクターです。

谷山先生
ドラマが現実と異なるのは、皆さんも よくご存じでしょう。誤解を防ぐため、ドラマでは臨床宗教師という呼称は使用しないようお願いしましたが、基本的には原作を尊重しています。

臨床宗教師の背景は仏教・神教・キリスト教など様々です。病院を含む公共空間での活動にあたっては倫理綱領を遵守しており、袈裟を着用することもありませんし、読経やお祈りも依頼が無い限りはしません。宗教を忌避される方を訪問することもありません。あくまでもニーズに応じて活動しています。

───実際にはどのような活動を?

高橋先生
病院においては、病や死の不安を抱える患者さんやご家族の言葉を傾聴するとともに、患者さんを支える職員のストレス軽減への貢献を。また福祉施設や在宅ケアの部分では、高齢者の方々が充実した日々を生きられるようなお手伝いを。不安を抱えるご家族のご相談にも応じています。傾聴とスピリチュアルケアが活動の基本です。
看護師受講生が学んだ「どうしようもないことに向き合う」では、臨床宗教師が行う「傾聴とスピリチュアルケア」は医療現場でどう役立つのでしょうか。受講生の一人、グループホームで看護師として働くGさんにお話を聞きます。

───受講のきっかけを教えてください。

Gさん
この20年で医療の在り方や、命に対する考え方が変わってきました。患者さんの望む生活を最後まで支援するという方向性を掲げる一方、本人の意思決定が通らない場面もたくさん経験するうち、このまま看護師を続けてもいいものかと価値観が揺らぐ出来事に遭遇しました。そんなときに、宗教者とともに学ぶ中で何か気付きを得られないか、と受講を決めました。

───ここで学んだことは?

Gさん
看護師は「原因があって病気がある」という因果関係を重視しますが、ここでは 「どうしようもないことに向き合う」「どうにもならないことを受け入れる」 という考え方をします。終末期医療、緩和ケアの分野はもちろん、あらゆる患者さんに寄り添うことを意識したとき、この考え方は非常に重要ではないでしょうか。

受講以来、入居者さんから「ゆっくり話を聞いてくれる人」と認識してもらえるようになり、ホームで生活する苦悩や、幼いころのエピソードなど、ケアを行う上でも重要な話を聞かせてもらえるようになりました。 高齢者が増えてきたいま、スピリチュアルケアができる医療者は必要不可欠な存在になってくると思います。
傾聴とセルフケア、医師にできることは?

───臨床宗教師のおこなう傾聴について、医療者にヒントをいただけませんか?

谷山先生
医療者にも宗教者にも共通して言えることですが、まずは「自分が上」だという感覚を捨てることです。医療者は傾聴についてときに「引き出す」という言葉を使われます。しかし、人間は誰しも心にしまっておきたいことがあり、無理に引き出せば心が散らかってしまうでしょう。「こぼれたものを残さずに拾う」という考え方が大切です。

また傾聴では、相手の気持ちや心の動きに焦点を当てますが、この第一歩として、「自分の心の動き」を理解する訓練をします。日本人は感情を表に出さない風潮があるため、相手の感情も読み取りにくく、自分の感情にも気づきにくい。まずは「イライラしているな」「悲しいな」など、自分と向き合うことで、相手の感情も徐々に理解できるようになります。

人間は相手の話を聞くときにどうしても「自分」が出てしまいますが、自分の心の癖や傾向を知ると、相手の話から極力「自分」の影響を排除できるようになります。スピリチュアルケアは、相手の内面に触れること。触れる手は、できるだけまっさらな状態にしておきたいですよね。

───患者さんを受け止め続けて、自身の心が疲れたときはどうしたらいいでしょう?

谷山先生
セルフケアの意識づけが大切です。日常の、たとえば“チョコを食べる”という動作ひとつとっても「私は今からセルフケアをするのだ」という意識をもって食べる。3分間じっと目をつぶってみるなど、短時間でも仕事を忘れる瞬間を作りましょう。

───先のお話にもありましたが、臨床宗教師は医師や看護師のケアもしてくださるのですよね?

谷山先生
患者さんだけでなく、職員もそれぞれの葛藤を抱えています。その心を解きほぐし、思いを語っていただき、整理する。このお手伝いが私たちの役割です。

私たちは、病院の中でも外でもない中立的な立場。職場の悩み、人生相談、ちょっとした愚痴など様々なことを打ち明けていただきます。

患者さんやご家族のお話は共同守秘義務の元、医療チームにのみ共有しますが、職員の話は一切口外しません。「辞めたいな…」という愚痴も気軽にこぼせることが大切で、実際には医師・看護師含め職員の離職率を下げられる可能性があると考えております。

───臨床宗教師に医療機関へ来てほしい、話を聞いてほしいという場合はどうしたらいいのでしょうか?

谷山先生
各エリアの臨床宗教師会にご相談ください。宗教者としての仕事と並行して活動しているので、常勤というのは少々難しく、週に数回のボランティアとして関わらせていただくことが多いです。

医師と宗教者の共通点として、周囲の持っているイメージとのギャップがあるのではないかと考えております。常に「先生」と言われ、ときに崇められ、過剰な期待をかけられ…なかなか弱みや悩みを打ち明けられないこともあるでしょう。けれど実際には医師も宗教者も、普通の人間です。患者さんのケアはもちろん、医師を含めた職員のケアについてもご相談いただければと思います。
ドラマ「病室で念仏を唱えないでください」の放送がスタートし、注目の集まる臨床宗教師。患者さん・職員のケアやサポートの担い手として、そして悩みを抱えているという医療従事者の相談相手として、頼れるパートナーになってくれるかもしれません。次回は、患者支援プロジェクトCaNoW※を通じ、がん闘病中の精神科医師が、臨床宗教師にその思いの丈を打ち明けます。



また、東北大学では現在、令和2年度 「臨床宗教教養講座」の受講者を募集しています。応募〆切は2月7日(金)。
詳細はこちらをご覧ください。


※患者支援プロジェクトCaNoWとは

人生100年時代、2025年には全人口の約18%にあたる2179万人が後期高齢者に。さらに医療の発達により、さまざまな疾患を持ちながらも、その病と共生する人々が年々増加しています。

「CaNoW」は、病気や加齢などを理由に叶えられなかった「やりたいこと」の実現をサポート。これまでにも先行モニター企画として、「大好きなサッカーチームをスタジアムで応援したい」「病に倒れてから一度も行けていない職場へ、もう一度行きたい」「生まれ育った土地をもう一度観に行きたい 」などの願いを叶えてきました。

詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。


情報公開日: 2020.02.05
掲載元媒体:m3.com
掲載日:2020.01.26
掲載元URL:https://www.m3.com/lifestyle/720617