<AV問題>語り始めた業界人(2)「清く正しくは間違い」
毎日新聞 9月17日(土)9時1分配信
◇現役監督の市原克也さん、規制強化を懸念
アダルトビデオ(AV)への出演強要を巡る問題は、現場を取り仕切る監督たちの姿勢にも影響を与えている。女優の“素”に迫る「ドキュメント・フェイク」と呼ばれる手法が採りづらくなったと語るのは現役監督の市原克也さん(55)。出演強要は「考えられない」と非難しつつも、それが社会問題として大きく取り上げられ、業界全体に厳しい目が向けられている現状については、「食中毒を出す店があるために、他の店も全て不衛生だと思われているようなもの」と指摘した。また、「AVを『清く正しいもの』にしていこうという方向は、間違っているのでは」と述べ、取り締まりの強化や自主規制の動きを警戒する。【AV問題取材班】
【動画】現役AV女優の香西咲さん「私はこうして洗脳された」
◇「ドキュメント・フェイク」が撮りにくい
--AVへの出演強要被害があると聞いて、どう思った?
市原監督 ちょっと考えられない。第一、僕らはやる気のない人間を現場に入れるということがない。「やる気のない女をどうやって撮っているのか?」と聞いてみたい。無理やりやらせようとしても、やっぱりセックスできないから。事故も起こるしね。
--強要問題が話題になった後、撮影に影響が出ていますか?
市原監督 男優として出演する「ザ・面接」シリーズは、面接者の女優をメーカーのオフィスに招き、その性行為を見た周りの女性たち(エキストラ)も興奮していくという設定。「業界がやっていることをクリアにしよう」という動きがありますが、あまり言われるとそういう「ドキュメント・フェイク」が作りにくくなる。
--そういった女優の「リアルな反応」を追求する作品は危険視される可能性がある?
市原監督 あるある。あれがすごく嫌やねん。「ドキュメント・フェイク」とは言ってもセックスを超えることはしませんし、女優は「セックスOK」なんだから撮影はその枠内にある。熱いお湯に入るわけでもないし、公衆の前で裸になるわけでもない。だから、後はギャラの問題ですよね。
--人権団体などはそういった「意に沿わない撮影」も問題視します。
市原監督 女優によっては「事前に言われない方がいい」という人もいる。撮影の朝に会って「これからセックスするけど、こうやってこうやるからな」って言います? 幼稚園の運動会じゃないんだから。多少分からなかった方がいい。
◇「ニーズ」があれば、被害が生まれる
--女優が「NG事項」としている過激な内容を現場で強いるようなことはない?
市原監督 それはできないと思う。僕が監督している「中出しシリーズ」もムチャクチャやっているけど、台本があって、テストにテストを重ねて、そういうドキュメントに見えるようにやるわけです。ただ、事務所的に「現場で女優がいいと言えばOK」という話はあるかもしれない。これは(女優の言動の)解釈の仕方になるので、結構難しい。
--「もっと過激なものを見たい」というユーザーの志向も影響?
市原監督 あるだろうね。メーカーがどんなニーズに応えるかというのは難しい問題で、監督それぞれの方向性もある。「女優のつらい顔が撮りたい」というなら、その方法で合っているよ。でも僕は「ええセックスが撮りたい」という立場だから、同じ方向を向いていない。「リアルに嫌がるものを見たい」というニーズがあれば、こうなる(強要被害が生まれる)だろうね。
◇「食中毒出す店」が悪い
--最近の女優の傾向は?
市原監督 若い子は全体的に変わってきた。AVに抵抗がなく「ドンと来い」「やったるで」という感じ。「人がええ気持ちでセックスしてるなら、私もやるわ」みたいな。参加型というか、悪く言えば恥じらいがない。「見られてもかまへん。知るかそんなもん」と楽しんで帰っていく。
--AV出演で「一線を越えてしまう」「転落する」などとは思っていない?
市原監督 そういうのは年に何人かしかいない。一つ一つの絡み(性行為)が意味を持つから、僕らはその方がありがたいんだけど……。最近は「手作りの老舗の味」みたいなものがなくなって、インスタントラーメンみたいにセックスが軽くなっている。
--そういう傾向の中でも、強要被害が報告されていることをどう思う?
市原監督 やっぱり、そういうグループがあるんだろうね。(強要する事務所などは)「食中毒ばっかり出す焼き肉屋」という印象がある。腐りかけの肉や生肉を出して、食中毒をぎょうさん出す店ですよ。全然(食中毒を)出さへん店もあるのに……。
--「焼き肉業界全体に食中毒が広がっている」と思われるのは心外?
市原監督 そう。「違う、そこだけや!」って言いたい。でも、ちょっと可愛いやつを無理やり脱がせて、やめないように「罰金取るで」というスタイルは、ビジネスとしては分かる。もう嫌になるくらい古典的。「そんなやつ、まだおったんかい」って。いるならいなくなってほしい。こんな大問題になって、えらい迷惑やわ。
◇業界内の「最大公約数」で折り合いを
--スカウトや事務所が女性をだまし、出演料を搾取するケースもあると聞く。
市原監督 「オレオレ詐欺」をやるような世代がマネジャーやスカウトをやれば、自然とそうなるのでは。「お前も稼げるんだから、いいじゃないか」みたいな考え方。そう思えば、時代的なものかもしれないね。僕は(手法が)古いという印象を持ったけど、やっぱり新しい社会の事情があるのかな。
--「ピンハネ」の実態とは?
市原監督 例えば、メーカーが事務所に払う出演料が15万円とする。ある事務所は女優に5万円しか渡さないかもしれない。ある事務所は10万円渡すかもしれない。それはマネジャーが自由に決められるんです。同じ現場に別の事務所の女優が複数いた場合、みんな手取りが違う可能性もあります。でも暗黙のルールで、僕ら(監督)はあいつらのシノギに関して何も言わない。どんなに悪辣(あくらつ)なことをしていてもアンタッチャブル。言いだすとケンカになる。彼らも僕らが何を撮るか、作品のことは一切言わない。
--元女優の川奈まり子さんが出演者の支援団体「AVAN」を設立し、そのように断絶している業界構造を変えようとしています。メーカーと事務所、出演者が情報共有していくことは可能でしょうか?
市原監督 川奈さんには賛成しているし、AVANにも参加しようと思っています。でも、「いったいどこまでやるのか」という程度の問題がある。「ゴミ一つ落ちていないきれいな世界を作ろう」と思ったら、まとまらないですよ。皆が望むことの「最大公約数」をいかに見つけられるか。理想と現実の折り合いを付けなきゃいけない。
◇AVは「善なるもの」ではない
--人権団体は法整備を求め、「本番の性交渉を禁止すべきだ」とまで言っています。
市原監督 人権団体の要請書など読む気もないし、討論しようとも思わない。「よその焼き肉屋で食中毒を出して、うちの店でなんか考えなあかんのか」とも思うし、現時点では自分の問題として考えられない。そもそもAVは「国に守ってもらおう」なんて考えるようなものじゃない。やくざが「殺されそうです」って警察に行きますか? AVは善悪で言えば善ではないもの。「清く正しいもの」にしていこうという方向は間違っていると思う。
--テレビのバラエティー番組に出てCDを出し、「清く正しい」アイドルタレントのように扱われるAV女優も増えた。「タレントになるステップ」として業界入りする人をどう思う?
市原監督 AVしか勝負する方法がないなら、やるべきでしょうね。競馬と一緒でそこに100円かけたいか、1万円かけたいかの問題。「かける」と言うならしょうがないけど、外れても文句言わないでほしい。「自分は運が悪い」と思ったらこんな所に来ちゃダメ。“勝負気配”が大事なのはギャンブラーと一緒です。「運がいい」と思ったら、タレントでも何でも夢をかけてみればいいんじゃないでしょうか。
■市原克也(いちはら・かつや)1961年、兵庫県生まれ。上智大国文科を卒業後、国立能楽堂の三役養成試験に合格してシテの手伝いをしていたが、挫折して能の世界を離れる。成人向け雑誌編集部でのアルバイトを機に27歳でAV男優としてデビュー。独特の関西弁で女優を責め立てるキャラクターが注目され、その後、監督としても活躍。93年から続く代々木忠監督の長寿シリーズ「ザ・面接」では面接隊長として男優陣を率いる。無類のギャンブル好きとしても知られ、競馬雑誌に連載も持つ。
アダルトビデオ(AV)への出演強要を巡る問題は、現場を取り仕切る監督たちの姿勢にも影響を与えている。女優の“素”に迫る「ドキュメント・フェイク」と呼ばれる手法が採りづらくなったと語るのは現役監督の市原克也さん(55)。出演強要は「考えられない」と非難しつつも、それが社会問題として大きく取り上げられ、業界全体に厳しい目が向けられている現状については、「食中毒を出す店があるために、他の店も全て不衛生だと思われているようなもの」と指摘した。また、「AVを『清く正しいもの』にしていこうという方向は、間違っているのでは」と述べ、取り締まりの強化や自主規制の動きを警戒する。【AV問題取材班】
【動画】現役AV女優の香西咲さん「私はこうして洗脳された」
◇「ドキュメント・フェイク」が撮りにくい
--AVへの出演強要被害があると聞いて、どう思った?
市原監督 ちょっと考えられない。第一、僕らはやる気のない人間を現場に入れるということがない。「やる気のない女をどうやって撮っているのか?」と聞いてみたい。無理やりやらせようとしても、やっぱりセックスできないから。事故も起こるしね。
--強要問題が話題になった後、撮影に影響が出ていますか?
市原監督 男優として出演する「ザ・面接」シリーズは、面接者の女優をメーカーのオフィスに招き、その性行為を見た周りの女性たち(エキストラ)も興奮していくという設定。「業界がやっていることをクリアにしよう」という動きがありますが、あまり言われるとそういう「ドキュメント・フェイク」が作りにくくなる。
--そういった女優の「リアルな反応」を追求する作品は危険視される可能性がある?
市原監督 あるある。あれがすごく嫌やねん。「ドキュメント・フェイク」とは言ってもセックスを超えることはしませんし、女優は「セックスOK」なんだから撮影はその枠内にある。熱いお湯に入るわけでもないし、公衆の前で裸になるわけでもない。だから、後はギャラの問題ですよね。
--人権団体などはそういった「意に沿わない撮影」も問題視します。
市原監督 女優によっては「事前に言われない方がいい」という人もいる。撮影の朝に会って「これからセックスするけど、こうやってこうやるからな」って言います? 幼稚園の運動会じゃないんだから。多少分からなかった方がいい。
◇「ニーズ」があれば、被害が生まれる
--女優が「NG事項」としている過激な内容を現場で強いるようなことはない?
市原監督 それはできないと思う。僕が監督している「中出しシリーズ」もムチャクチャやっているけど、台本があって、テストにテストを重ねて、そういうドキュメントに見えるようにやるわけです。ただ、事務所的に「現場で女優がいいと言えばOK」という話はあるかもしれない。これは(女優の言動の)解釈の仕方になるので、結構難しい。
--「もっと過激なものを見たい」というユーザーの志向も影響?
市原監督 あるだろうね。メーカーがどんなニーズに応えるかというのは難しい問題で、監督それぞれの方向性もある。「女優のつらい顔が撮りたい」というなら、その方法で合っているよ。でも僕は「ええセックスが撮りたい」という立場だから、同じ方向を向いていない。「リアルに嫌がるものを見たい」というニーズがあれば、こうなる(強要被害が生まれる)だろうね。
◇「食中毒出す店」が悪い
--最近の女優の傾向は?
市原監督 若い子は全体的に変わってきた。AVに抵抗がなく「ドンと来い」「やったるで」という感じ。「人がええ気持ちでセックスしてるなら、私もやるわ」みたいな。参加型というか、悪く言えば恥じらいがない。「見られてもかまへん。知るかそんなもん」と楽しんで帰っていく。
--AV出演で「一線を越えてしまう」「転落する」などとは思っていない?
市原監督 そういうのは年に何人かしかいない。一つ一つの絡み(性行為)が意味を持つから、僕らはその方がありがたいんだけど……。最近は「手作りの老舗の味」みたいなものがなくなって、インスタントラーメンみたいにセックスが軽くなっている。
--そういう傾向の中でも、強要被害が報告されていることをどう思う?
市原監督 やっぱり、そういうグループがあるんだろうね。(強要する事務所などは)「食中毒ばっかり出す焼き肉屋」という印象がある。腐りかけの肉や生肉を出して、食中毒をぎょうさん出す店ですよ。全然(食中毒を)出さへん店もあるのに……。
--「焼き肉業界全体に食中毒が広がっている」と思われるのは心外?
市原監督 そう。「違う、そこだけや!」って言いたい。でも、ちょっと可愛いやつを無理やり脱がせて、やめないように「罰金取るで」というスタイルは、ビジネスとしては分かる。もう嫌になるくらい古典的。「そんなやつ、まだおったんかい」って。いるならいなくなってほしい。こんな大問題になって、えらい迷惑やわ。
◇業界内の「最大公約数」で折り合いを
--スカウトや事務所が女性をだまし、出演料を搾取するケースもあると聞く。
市原監督 「オレオレ詐欺」をやるような世代がマネジャーやスカウトをやれば、自然とそうなるのでは。「お前も稼げるんだから、いいじゃないか」みたいな考え方。そう思えば、時代的なものかもしれないね。僕は(手法が)古いという印象を持ったけど、やっぱり新しい社会の事情があるのかな。
--「ピンハネ」の実態とは?
市原監督 例えば、メーカーが事務所に払う出演料が15万円とする。ある事務所は女優に5万円しか渡さないかもしれない。ある事務所は10万円渡すかもしれない。それはマネジャーが自由に決められるんです。同じ現場に別の事務所の女優が複数いた場合、みんな手取りが違う可能性もあります。でも暗黙のルールで、僕ら(監督)はあいつらのシノギに関して何も言わない。どんなに悪辣(あくらつ)なことをしていてもアンタッチャブル。言いだすとケンカになる。彼らも僕らが何を撮るか、作品のことは一切言わない。
--元女優の川奈まり子さんが出演者の支援団体「AVAN」を設立し、そのように断絶している業界構造を変えようとしています。メーカーと事務所、出演者が情報共有していくことは可能でしょうか?
市原監督 川奈さんには賛成しているし、AVANにも参加しようと思っています。でも、「いったいどこまでやるのか」という程度の問題がある。「ゴミ一つ落ちていないきれいな世界を作ろう」と思ったら、まとまらないですよ。皆が望むことの「最大公約数」をいかに見つけられるか。理想と現実の折り合いを付けなきゃいけない。
◇AVは「善なるもの」ではない
--人権団体は法整備を求め、「本番の性交渉を禁止すべきだ」とまで言っています。
市原監督 人権団体の要請書など読む気もないし、討論しようとも思わない。「よその焼き肉屋で食中毒を出して、うちの店でなんか考えなあかんのか」とも思うし、現時点では自分の問題として考えられない。そもそもAVは「国に守ってもらおう」なんて考えるようなものじゃない。やくざが「殺されそうです」って警察に行きますか? AVは善悪で言えば善ではないもの。「清く正しいもの」にしていこうという方向は間違っていると思う。
--テレビのバラエティー番組に出てCDを出し、「清く正しい」アイドルタレントのように扱われるAV女優も増えた。「タレントになるステップ」として業界入りする人をどう思う?
市原監督 AVしか勝負する方法がないなら、やるべきでしょうね。競馬と一緒でそこに100円かけたいか、1万円かけたいかの問題。「かける」と言うならしょうがないけど、外れても文句言わないでほしい。「自分は運が悪い」と思ったらこんな所に来ちゃダメ。“勝負気配”が大事なのはギャンブラーと一緒です。「運がいい」と思ったら、タレントでも何でも夢をかけてみればいいんじゃないでしょうか。
■市原克也(いちはら・かつや)1961年、兵庫県生まれ。上智大国文科を卒業後、国立能楽堂の三役養成試験に合格してシテの手伝いをしていたが、挫折して能の世界を離れる。成人向け雑誌編集部でのアルバイトを機に27歳でAV男優としてデビュー。独特の関西弁で女優を責め立てるキャラクターが注目され、その後、監督としても活躍。93年から続く代々木忠監督の長寿シリーズ「ザ・面接」では面接隊長として男優陣を率いる。無類のギャンブル好きとしても知られ、競馬雑誌に連載も持つ。