2021/03/29

人間革命 - Wikipedia

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人間革命

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人間革命(にんげんかくめい)は、創価学会第2代会長戸田城聖によって唱えられた宗教思想[注 1]。また、この思想をテーマとして、創価学会の歴史と戸田の生涯を描いた長編小説。創価学会の教学上重要な文献とされ[1]、同名誉会長(第3代会長)池田大作の代表的著作でもある[1]

『人間革命』は1965年に聖教新聞で連載を開始し[2]、続編『新・人間革命』は2018年に同紙で完結した[3]

本項では、戸田城聖が1951年の同紙創刊号で連載を開始し、1954年に完結した同名の小説『人間革命』(後に『小説 人間革命』と改題)についても併せて紹介する。

小説[編集]

小説としての『人間革命』は、創価学会第2代会長戸田城聖の創価教育学会再建から戸田の死、山本伸一(池田大作)の第3代会長就任までを描いている。全12巻。『新・人間革命』は、山本伸一(=池田大作)の創価学会第3代会長就任から宗門であった日蓮正宗との決別までを描いている。全31巻。

戸田城聖による同名の小説人間革命』と、池田大作による同名の小説『人間革命』(英語題:"The Human Revolution")で、いずれも『聖教新聞』に連載された。戸田版は創価学会草創期のエピソードを、池田版は創価学会再建期からのエピソードなどを小説化したものである。

聖教新聞社によれば、池田版『人間革命』とその続編『新・人間革命』(英語題:"The New Human Revolution")は、2018年9月8日の連載終了時点で7978回(『人間革命』1509回、『新・人間革命』6469回)に及んでいる[4]。日本の新聞小説の連載回数としては山岡荘八の『徳川家康』を上回り、史上最長とされた[3]

池田版には川端龍子三芳悌吉による挿絵がある[5]

成立過程[編集]

戸田城聖は「妙 悟空(みょう ごくう)」という筆名のもと、1951年から『聖教新聞』に『人間革命』を連載して1954年に完結した。1957年に単行本が刊行され[6]、1988年に『戸田城聖全集』の第8巻に収録された[7]。これを引き継ぐ形で、池田大作が「法 悟空(ほう ごくう)」という筆名のもと、1965年から『聖教新聞』に『人間革命』を連載した[1]

戸田版は1951年4月20日(『聖教新聞』創刊号)から1954年8月1日までの3年4カ月、池田版は1965年1月1日から1993年2月11日まで幾度の休筆を挟みながら28年1カ月強連載された。その後、1993年11月18日から2018年9月8日まで続編の『新・人間革命』が24年10カ月弱連載された。戸田版『人間革命』では戸田は主人公の「巌 九十翁(がん くつお)」、創価学会初代会長牧口常三郎は「牧田城三郎(まきた じょうざぶろう)」(後の版では実名に改めている)で登場する。池田版『人間革命』と『新・人間革命』に牧口と戸田は実名で登場するが、池田は「山本伸一」の名で登場する[1]。『新・人間革命』の単行本の最終巻となった第30巻は、上下巻として刊行された[8]ため、単行本は実質的には全31巻となった。これは、単行本の第1巻の前書きで「全30巻を予定している」と記したものの、第30巻が1冊で収まらなくなる程の分量となったためである。

創価学会によれば、一部の原稿については池田の直筆原稿ではなく、池田の妻香峯子による口述筆記やテープレコーダーに収録する形式で執筆されていた[9]

戸田には他にまとまった著作がないため、『(戸田版)人間革命』が代作であった可能性を島田裕巳は示唆する[6][10]

現在刊行されている池田版『人間革命』は、『池田大作全集』(全150巻に及ぶ世界最大級の個人全集とされる)に所収(第144~第149巻に収録。全12巻を6巻に再編し、2012年9月から2013年7月まで刊行)される際に、創価学会執行部から『新・人間革命』との齟齬の解消や読みやすさを求められた事を受けて[要出典]池田自らが推敲を重ねた第2版で、宗門関係や歴史の記述を中心に表現・表記の修正が行われている[要出典]。また、この第2版は単行本としては刊行されず、文庫(聖教ワイド文庫)版での刊行とし、全12巻を2012年12月から2013年12月にかけて刊行されている。

受容[編集]

『人間革命』は創価学会の教学上重要な文献とされ[1]、1977年1月の第9回教学部大会での講演「仏教史観を語る」で、第3代会長池田大作は自らの『人間革命』を日蓮遺文を集めた御書(創価学会が刊行している「新編 日蓮大聖人御書全集」をさす)に匹敵する書物として位置付けた[11]。創価学会で教学部に任用され「講師」となろうとする人には日蓮の遺文に加え、『人間革命』を理解することが求められた[12]

聖教新聞社によれば、2018年時点で、『人間革命』と『新・人間革命』を合わせた累計発行部数は5400万部、『新・人間革命』だけでも2400万部に達する[13]

映画[編集]

人間革命
監督舛田利雄
脚本橋本忍
製作田中友幸
出演者丹波哲郎
音楽伊福部昭
撮影西垣六郎
配給東宝
公開1973年
上映時間160分
製作国日本
言語日本語
配給収入13億円[14]
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続・人間革命
監督舛田利雄
脚本橋本忍
製作田中友幸
出演者丹波哲郎
音楽伊部晴美
撮影西垣六郎
配給東宝
公開1976年
上映時間159分
製作国日本
言語日本語
配給収入日本の旗 16億700万円
(1976年邦画配給収入1位)[15]
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1973年9月8日、『人間革命』のタイトルで東宝と創価学会系のシナノ企画の共同製作で映画化された。1976年にほぼ同じスタッフ・出演者で『続・人間革命』が公開されている。

1973年の観客動員数では、『日本沈没』に次ぐ第2位となった。2006年にシナノ企画からDVDが発売されている。

2018年10月〜11月にかけ、スカパー!日本映画専門チャンネルでテレビ初放送された[16]

人間革命(1973年)[編集]


続・人間革命(1976年)[編集]


劇画[編集]

劇画・人間革命
ジャンル劇画
漫画
作者石井いさみ(原作・池田大作)
出版社聖教新聞社
掲載誌聖教新聞
発表期間1988年 - 2002年
巻数56冊
テンプレート - ノート

1988年から2002年まで14年間にわたり、『聖教新聞』日曜に『劇画・人間革命』が連載された。

作者は『750ライダー』などの作品で知られる漫画家・石井いさみで、同紙の『ざくろの花』『走れ!!美穂』、小学生文化新聞の『明日に向かって投げろ!!』などで長くコンビを組んでいた聖教新聞社社会部記者、渡辺紀大が「渡あきら」名義で漫画原作を担当している[注 2]

内容は上記の池田大作の小説『人間革命』全12巻を、ほぼ原作通りに劇画化している[注 3]。単行本にすると20ページ分の内容を、『聖教新聞』の1ページ全面に縮刷して掲載していた。

聖教新聞社より全56巻で単行本が刊行されている。

2020年4月24日より、聖教ワイド文庫の第2版に合わせる形で再編集した『劇画・人間革命』第2版を聖教電子版にて配信開始。週2回。

アニメ[編集]

アニメ人間革命
ジャンルOVA
OVA
監督勝間田具治
キャラクターデザイン石井いさみ(原画原案)
アニメーション制作東映アニメーション
製作シナノ企画
発表期間1995年 - 2004年
その他全20巻
テンプレート - ノート

アニメ人間革命』は、1995年から2004年にかけてOVAとして発表された。全20巻。池田の原作に加え、キャラクターデザインやストーリー展開などは、主に上記の石井いさみの劇画に基づいている。

スタッフ

脚注[編集]

[脚注の使い方]

脚注[編集]

  1. ^ 創価学会は「仏法の実践を通して各人が人間革命を成就し、真の幸福境涯を確立する」ことを教義・理念の一環として掲げる(https://www.sokanet.jp/info/kyougi_rinen.html)
  2. ^ 石井は創価学会の会員ではないが、『走れ!!美穂』などを連載していた聖教新聞の記者から贈られた『人間革命』を読んで魅了され、「もし『人間革命』を劇画化するなら絶対に自分がやりたい」と考えていたという[要出典]
  3. ^ 池田名誉会長の原作の第12巻の最終章「新・黎明」のみ劇画では省略されている。
  4. ^ 第5話までは『寺瀬めぐみ』名義。
  5. ^ この回からデジタル制作となる。

出典[編集]

  1. a b c d e 島田裕巳 2004, pp. 120-122.
  2. ^ 高橋 篤史 世界的イベントを3月11日に控えた創価学会の「秘史」を明かそう 2018.03.09
  3. a b 日本最長の新聞小説「新・人間革命」完結 作者・池田大作氏の近況は? 2018年09月15日08時00分 J-CAST
  4. ^ 小説「人間革命」「新・人間革命」が連載7000回
  5. ^ 央忠邦 『日本の潮流 創価学会発展の歩み』、1968年1月31日、149頁。
  6. a b 島田裕巳 2004, p. 45.
  7. ^ 沼田 健哉 創価学会の研究 : 宗教と科学の関係を中心として 総合研究所紀要 22(2), 1-13, 1997-01-31
  8. ^ きょう「2・11」 戸田城聖先生生誕の日 小説「新・人間革命」第30巻を発刊 上・下2分冊 - 2018年2月11日付け聖教新聞1面記事
  9. ^ 執筆開始50周年記念企画 人間革命 - VTR『~恩師の「真実」を後世に~ 小説『人間革命』の執筆』の予告動画付き
  10. ^ 島田裕巳 2004, p. 48.
  11. ^ 島田裕巳 2004, p. 105.
  12. ^ 島田裕巳 2004, pp. 142-146.
  13. ^ 『新・人間革命』第30巻で完結へ/上巻6月、下巻11月刊行/聖教新聞社、出版・書店業界 NEWS、2018年5月2日 18時51分49秒。
  14. ^ 『キネマ旬報ベスト・テン85回全史 1924-2011』(キネマ旬報社、2012年)312頁
  15. ^ 『キネマ旬報ベスト・テン全史: 1946-2002』キネマ旬報社、2003年、214-215頁。ISBN 4-87376-595-1
  16. ^ 追悼・橋本忍「人間革命」 70年代の日本大作映画の傑作として名高いが、観る機会が限られてきた幻の一作をテレビ初放送(archive版)

参考文献[編集]

関連項目[編集]

人間革命 第4話  生命の庭

創価学会、中国での活動解禁はいつに? 中国側は「非常に関心があると思う」と佐藤優氏 (1/4) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

創価学会、中国での活動解禁はいつに? 中国側は「非常に関心があると思う」と佐藤優氏 (1/4) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

創価学会、中国での活動解禁はいつに? 中国側は「非常に関心があると思う」と佐藤優氏






木村恵子2020.11.19 07:02AERA







対談を行った佐藤優氏と澤田瞳子氏。連載に記された内容の「その後」を展望する話題で大いに盛り上がった(撮影/楠本涼)







池田大作研究 世界宗教への道を追う

佐藤 優

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 佐藤優氏のAERAでの連載を収録した書籍「池田大作研究 世界宗教への道を追う」が出版された。AERA 2020年11月23日号では、同書について佐藤氏と作家の澤田瞳子氏が語り合った。

*  *  *
澤田:本を拝読していて、非常に面白かったことがあります。池田大作氏の機械工学の技術が非常に役立っているというお話。この間、作家の安部龍太郎先生とお話ししたんですが、安部先生、機械工学のご出身なんですよ。なぜその安部さんが歴史小説をやろうとしたかという話になったとき、理系の人間は、結論に至るまでの過程をとても大事にする、と。だから家康が天下を取った話のときには、権力掌握の事実のみを語るのではなく、その過去をさかのぼって原因を分析する。歴史分析に必要な眼差しは、理系の人間の考え方と近いとおっしゃっていました。

佐藤:安部先生の場合、種子島に鉄砲が伝来したことについても、火薬に必要なものは硫黄と硝石と木炭で、硝石さえあれば種子島には硫黄があるから作れる。そうするとあれは、やはり意図的に来たんじゃないかって結び付ける。非常に説得力がありますよね。

澤田:そうなんです。理系の方って、そういうさかのぼり方ができるわけです。池田氏の機械工学の話が出てきたときに、あ、ひょっとしてこれと関係あるのかもしれないと考えたわけです。

佐藤:あると思います。池田氏の中にそういった工学的な発想というのは。

澤田:さきほどの「詰めない」という話も、過去をずっと見てこられた方だったら、そこは詰めないほうがいいだろうなと、そのメリットをよくご存じのはずなんです。

佐藤:それを計算してやってるんじゃなくて何となくそうなってるって、私なんかは思うんですよね。それがやっぱり宗教の強さだと思うんですよ。計算するとダメなんですよ。

澤田:池田大作氏が初代ではないことも大きいのかもしれないと感じました。第3代ということは過去があって、そして未来がある事実を意味するわけですし。




■中国での活動解禁に注目 無視できない影響力生む


佐藤:ある種の上書きで少しずつずらしていくわけですよね。戸田城聖は牧口常三郎を少しずらしてきてるし、池田大作も戸田城聖を少しずらしている。だから、そのズレの中の面白さがあるんです。時系列でテキストを読むと、あれ、変わってきてるじゃないかということがある。さらに時系列を逆にして読むことで、新たな視点が見えるという面白さもある。キリスト教でも、旧約聖書から新約聖書に入っていくと大体つまずいちゃうんですよ。新約から旧約にいかないと。


澤田:そうなんですか。確かに子ども時代、イエス様を教えられてから旧約にいきました。ところで、今、創価学会員の方が、子どもたちに新しく教えるときは、どこからスタートするんですか。


佐藤:それは日々の勤行(ごんぎょう)。親が生活をするということでしょうね。


澤田:なるほど。ちなみに佐藤さんが今、世界宗教の動きで注目していることはありますか。


佐藤:世界宗教に対して力を持っていきそうなのは、やっぱりイスラムでしょうね。ヨーロッパでもアメリカでも、かなりの広がりを持ってきている。今後、アジア、それから中南米なんかでも広がりを持つでしょうね。アフリカでも、イスラムの広がりは非常に強くなっているでしょう。


澤田:ええ。イスラムの広がりは、今の世界情勢とすごく関わっているように見えますが、創価学会の場合、世界情勢に左右されることってあるんでしょうか。


佐藤:これから左右されてくると思いますよ。特に中国との関係において。私は、中国で創価学会の活動が解禁されるのはいつになるのかと思っているんです。そうしたら、あっという間に学会員が増えることになります。そうすると、もう無視できない、さまざまな影響力が生まれます。


澤田:韓国でも今、学会員さんは多いんですよね。


佐藤:多いです。百数十万人規模だと思います。竹島問題とか歴史問題で、決定的にぶつからないバッファとしての役割を、実はかなり果たしているんですよね。


澤田:これから先、海外に出た創価学会が、それぞれの国で政党的な力を持つ日というのは来るんでしょうか。


佐藤:今のところはそういう動きを示していないです。長期的に、そうなる可能性を排除してないと思います。これは各国が置かれた状況で変わってくるでしょう。公明党に相当するような政党というのは、ほかの国ではいまのところはないですよね。でも、創価学会の価値観からすると、信仰即行為で、政治の領域を信仰から除外してはいけないということだから。


澤田:そうなったときに、海外において創価学会が排斥されることも、また起きてきますかね。


佐藤:フランスのような国においては、その可能性があるということですよね。


澤田:そうですね。


佐藤:でも、それ以外の国には逆に、宗教がバックグラウンドにあるような政党っていくらでもありますから。それが一つ増えたんだっていうくらいのことなんでしょう。むしろ創価学会のほうが、その可能性を持っているのに、可能性を使ってないという非常に慎重な感じがしますね。世界の国々の文化や習俗を尊重していて、現地で信仰が根付くよう“土着化”することに時間をかけている。国の政治体制にもよりますが、政治はその後だと思います。


澤田:なるほど。ちなみに一番最初に政党ができるとすればどこでしょう。


佐藤:政党を具体的に作るかどうかはわからないんですけれども、イタリアではかなり力がありますよね。


澤田:イタリアですか。なかなかイタリアと創価学会って結び付かないです。


■体制とぶつからない道探れる宗教に関心がある


佐藤:2015年にイタリア共和国がイタリア創価学会とインテーサ(宗教協約)を結んでいます。いずれにせよ、あり方はその国の文脈によって決めていくっていうことだと思います。だから、今の時点では、まだその時期ではないと思うんですよ。私がいま関心があるのは、やはり中国がいつ外国宗教の解禁をするのか。そのときの外国宗教で念頭に置いているのは、創価学会とカトリックだと思います。中国はそれらとの関係をどうするか、すごく考えているでしょうね。


中国は経済においては資本主義ですからね。そうすると中国共産党は、マルクス主義が持っていたような「人々を解放する」という側面、あるいは毛沢東思想が持っていたその意味における正当性っていうのは、非常に弱くなっているわけですよ。社会の矛盾や問題、あるいは人々の悩みっていうのを、イデオロギーで解決できなくなっています。放置しておくと、昔の太平天国の乱みたいなことが起きる。だから、社会と体制との関係において、ある種折り合いをつける、社会の安定に貢献する宗教は、絶対に必要なんですよね。中国は、宗教が外国の植民地主義の手先になるという危険さを、よくわかっているんです。そこで今、すごく悩んでいると思うんですよ。


澤田:そういう意味で、歴史を学べば学ぶほど、安全な宗教から接触したほうがいいということがわかるわけですね。


佐藤:そういうことです。いま中国のあちこちの大学には、池田思想研究所っていうのが設けられているんです。


澤田:中国にですか。


佐藤:そうです。それは宗教としてではなくて、池田大作氏の思想を研究するというものです。でもその思想は、信仰体系と離れていないわけです。当然のことですよね。日本の中において創価学会は、天皇制とぶつかる形でスタートしたんだけれども、今は与党側に入っている。ということは、体制とぶつからない道を探れるということです。中国においても、「共産党体制とぶつからない形での宗教」を探るということからすると、中国は創価学会に非常に関心があると思うんですよね。


澤田:面白いですね。


佐藤:今後も池田氏と創価学会に関心を持ち続けたいと思っています。


(構成/編集部・木村恵子)


※AERA 2020年11月23日号より抜粋




創価学会員ではない佐藤優 新刊「池田大作研究」で問いたかったこと 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

創価学会員ではない佐藤優 新刊「池田大作研究」で問いたかったこと 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

創価学会員ではない佐藤優 新刊「池田大作研究」で問いたかったこと

栗下直也週刊朝日
佐藤優さん (c)朝日新聞社

佐藤優さん (c)朝日新聞社

 約10年前、雑誌への寄稿で創価学会名誉会長の池田大作氏に言及した際、作家の佐藤優さんは知人たちの反応に違和感を抱いた。

「『変なところに首を突っ込んだね』と一様に心配され、驚きました。創価学会に関して肯定的な発言を許さない空気に危うさを感じました」

巨大な影響力を持つ宗教団体をなぜタブー視するのか。多くの人は創価学会を理解した上で、批判しているのか。今回、佐藤さんは池田氏の著作『人間革命』『新・人間革命』を読み解き、池田氏の足跡を辿ることで創価学会のありようを浮き彫りにした。それを『池田大作研究 世界宗教への道を追う』(朝日新聞出版 2200円・税抜)にまとめた。

「本書でも触れましたが、私はキリスト教の洗礼を受けています。学会員ではありません。ただ、キリスト教を批判するのに新約聖書を読まなくては議論になりません。同じように創価学会を論じるならば、池田氏の著作を読むべきですが、外部から学会を批判する人の多くにはそうした形跡が見当たりません。外形的な批判に終始してきた印象です」

 本書の中で、特に力を入れたのは、北海道夕張市での炭鉱労組事件だ。創価学会が国政に進出した1950年代、夕張で創価学会系候補が票を集めた。社会党の牙城だった日本炭鉱労働組合が学会員の活動を規制するなど圧力をかけた。

「両者は一触即発になり、公開討論会まで予定されましたが、最終的には内々の対話で解決しました。この事件は創価学会の平和主義を考える上でも見逃せません。目の前に分厚い壁があった場合、壊そうとするのが社会革命家。ところが、創価学会は壁を壊そうとしません。壁が分厚ければ向こう側にいる人と友達になればいいと考えます。公明党が国や地方の政治で常にキャスティングボートを握ることとも無縁ではないはずです」

 創価学会と公明党は切り離せない関係だが、日本における政教分離に対する誤解についても、わかりやすく解説している。

「政教分離は国が宗教団体に介入すること、宗教行事を行うことを禁止したものです。宗教が政治にかかわるのは憲法違反ではありません。宗教色が強い候補者よりも、宗教的に中立を打ち出している候補者の後ろに宗教団体が隠れている場合のほうが問題ではないでしょうか」

 博覧強記で知られ、1カ月に600冊以上に目をとおす。関心は宗教のみならず多方面に及ぶが、メディア考察の一環で「1936年」に最近は注目しているという。

「二・二六事件が起こった裏で阿部定事件と上野動物園からのクロヒョウ脱走事件が起きました。メディアは阿部定とクロヒョウを競って報道し、国民の関心が政治に向かわないこともあり、政治の暴走が止まらなくなりました。ですから、現代のニュースのワイドショー化も非常に危険をはらんでいます」

 国家権力と対峙した佐藤さんだからこそ見えるものがあるのかもしれない。(栗下直也)

週刊朝日  2021年1月29日号

創価大学に“宗教色”ゼロなのは「世界宗教になっていくことを本気で考えているから」 佐藤優氏が指摘 (1/4) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

創価大学に“宗教色”ゼロなのは「世界宗教になっていくことを本気で考えているから」 佐藤優氏が指摘 (1/4) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)
創価大学に“宗教色”ゼロなのは「世界宗教になっていくことを本気で考えているから」 佐藤優氏が指摘

2020.11.18 07:02AERA







佐藤優(さとう・まさる)/作家・元外務省主任分析官。『創価学会と平和主義』『危機の正体』『ウイルスと内向の時代』『世界宗教の条件とは何か』など著書多数。2020年の菊池寛賞を受賞(撮影/楠本涼)







澤田瞳子(さわだ・とうこ)/作家。2010年、『孤鷹の天』でデビュー。『満つる月の如し 仏師・定朝』で新田次郎文学賞受賞。『若冲』『火定』『落花』『能楽ものがたり 稚児桜』で4度の直木賞候補に(撮影/楠本涼)







池田大作研究 世界宗教への道を追う

佐藤 優

amazon.co.jp


 AERA本誌で集中連載を終え、書籍化された『池田大作研究』。AERA 2020年11月23日号で、筆者の佐藤優氏と作家の澤田瞳子氏が語り合った。

【澤田瞳子さんの写真はこちら】

*  *  *
澤田:これからもまだ、池田大作氏や創価学会について注視していかれるのですか。

佐藤:はい。この本の中で書けていないことも、やっぱりあるんですよ。創価学会インタナショナル、SGIです。これがどのような発展をしていくかということについては、やはり関心を持っていますね。あと、教義的なことにも関心はあり、日寛教学がどのように再編されていくのかにも注目しています。

澤田:私、今回の対談のために初めて、創価大学のサイトを見たんですけど、宗教学部に近いものはないんですか。

佐藤:ないです。あえて作っていないんです。

澤田:じゃあ、例えば入学式とか卒業式とか、そういうときに宗教色は。

佐藤:ないんです。創価大学の中で、例えば寮とかで勤行(ごんぎょう)をやっている学生は当然多いわけなんですけれども、創価学会専用の宗教施設は大学内にはないんです。イスラム教の礼拝ができる施設はあって、これは留学生用です。イスラム教の礼拝場はありますが、創価学会の専用施設はありません。創価大学は宗教学大学ではないという立場を明確にしています。

澤田:そういうお話をうかがうと、創価学会はよその宗教や、よその文化に対しても、ものすごく敬意を払う団体なんだと感じますね。

佐藤:そこは、やはり世界宗教になっていくことを本気で考えているからですよね。池田大作氏がイギリスの歴史学者のアーノルド・トインビーや、ハーバード大学の神学の教授、ハーヴェイ・コックスら、いろいろな文化、宗教の人たちと対話しているという特徴がありますからね。

澤田:宗教というのは長く続けば続くほど、文化と密接に関わってくると思います。創価学会はほかの文化に非常に敬意を払っている。それは、我々がほかの宗教を見る時に必要な目ではないのかな、とも感じるわけです。

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佐藤:公明党のスタートということも考えてみると、創価学会の文化部から始まっているわけです。文化に政治を包み込んでいくという考え方が、創価学会員には濃厚なんでしょう。さまざまな文化があるということを認めて、多元性に立たないといけないから。ほかの宗教や文化を尊重できるっていうのは、自信があるからなんでしょうね。そういったものの影響を受けても、自分たちの信仰の本質が揺らぐことはないという自信。でも意外とそれ、知られてないところなんです。


澤田:創価学会関係の出版物がたくさんありますが、出版社を複数持っている宗教団体というのも珍しいです。「潮」と「第三文明」と……。


佐藤:僕は「第三文明」で松岡幹夫さんと対談をしています。大石寺(たいせきじ)のお坊さんだったんだけれども、創価学会との訣別があったときに、創価学会側についたお坊さんですね。彼には、なぜそういう人生を選択したのかとか、教義的なことを教えてもらったりしています。


澤田:学会員ではない佐藤さんが教義の解釈を話すということですね。


佐藤:あの人たちは全然そこのところは問題視しない。その意味では極めて寛容なんですよ。もっとも日本でも、キリスト教の教義について話す学者でキリスト教徒でない人もたくさんいますから。創価学会の人たちは、自分たちの解釈に自信を持っている。あと、私が悪意を持っていないということはわかっているわけですよね。


澤田:それは大きいでしょうね。


■コロナという難に直面 排外主義に歯止めかける


佐藤:だから、よく創価学会の婦人部の方たちに話しかけられるんですよ。佐藤優さんだね、いい本書いたらしいねって。あんた信頼してるからと。あと、今世はキリスト教でいいから、何回か輪廻転生を繰り返したら、うちのほうに来るだろうねと。そうすると逆に、横で聞いていた創価学会の幹部の人たちがあわてていました(笑)。


澤田:今世はキリスト教でいいからねって、明るい表現ですね。これは他宗教との優劣がないということでもありますよね。


佐藤:彼ら彼女らは、人間に強い関心があるんじゃないんですかね。生命、人間主義っていうことを重視する。それとつながるのが、この本の中で何度も出てきた「難」という言葉。苦難がやはり信心を強化する。人を強化する。だから、今このコロナという「難」に直面したときに、排外主義が強まっていくなかで、それに歯止めをかけてくれるっていう役割を、私は創価学会に非常に期待しているんです。創価学会員は、ナショナリズムや戦争に向けた動きがあっても、動かないんですよ。どんな理屈をつけて誰がどうやって動かそうとしても、体が動かない。だから、創価学会は、あれだけ激しい対立を日蓮正宗と起こしても、死者が一人も出てない。これもすごいことなんですよ。


澤田:そうですね。小説家の立場からすると、日蓮というのは、みんな興味を持つけれど、書くのに少々覚悟がいる人物です。そういう意味でも、創価学会のほうからアプローチしてみると実は捉えやすい、という気が今、してきました。明治から敗戦までを知ろうと思ったときに、やっぱり日蓮系の流れっていうのは、どこかで押さえなきゃいけないんですよね。


佐藤:それは絶対必要です。特に創価学会の人にとっては、日蓮ではなく釈尊から始まるというのは、モーゼとかアブラハムとか、あのへんの話をしてるように聞こえるんです。そうじゃなくて、イエス・キリストからスタートするということだったら、日蓮からスタートしないといけないんです。日蓮こそが、末法の時代の本仏なんだと。


澤田:対外的危機意識と日蓮を絡めて、その見方がどういうふうに変遷してきたかということには、個人的な興味があります。


佐藤:立正安国論の位置付けとも非常に関係してくるわけですよね。佐渡に渡る前の日蓮の業績も、創価学会は非常に重視するじゃないですか。これは時代の危機意識と関係してると思うんですよ。


澤田:創価学会の歴史を追いかけていくと、本当にこう、キリスト教がずっとやってきたことをぎゅっと短縮して、「NHKスペシャル」のようにまとめて見ているのと近い感覚を覚えます。


佐藤優(さとう・まさる)/作家・元外務省主任分析官。『創価学会と平和主義』『危機の正体』『ウイルスと内向の時代』『世界宗教の条件とは何か』など著書多数。2020年の菊池寛賞を受賞(撮影/楠本涼)
佐藤優(さとう・まさる)/作家・元外務省主任分析官。『創価学会と平和主義』『危機の正体』『ウイルスと内向の時代』『世界宗教の条件とは何か』など著書多数。2020年の菊池寛賞を受賞(撮影/楠本涼)





澤田瞳子(さわだ・とうこ)/作家。2010年、『孤鷹の天』でデビュー。『満つる月の如し 仏師・定朝』で新田次郎文学賞受賞。『若冲』『火定』『落花』『能楽ものがたり 稚児桜』で4度の直木賞候補に(撮影/楠本涼)

■曖昧にしておく力がある 機が熟すまでは決めない


佐藤:私にも、そういうふうに見えるんですよね。だから今回の本は、その点が創価学会の人からしても、意外な面白さだったと思うんです。その中で見えたこととして、創価学会は池田大作氏を信仰の核心においていくという信仰体系がある。私はこれに全然違和感がないんですよ。キリスト教もそうですから、結局。


澤田:なるほど。ただ池田大作氏は存命でいらっしゃるというところが、私からするとイエス・キリストと一緒にしていいのかというのがあるのですが……。


佐藤:本来仏教の考え方だと、悟りっていうのは誰でも開けるわけだから。悟りを開いたんだったら、それは仏なわけだから。


澤田:そういう意味では私は、既存の宗教観に侵されているんでしょうね。宗教とはすごく過去に作られたものっていうイメージが、どこかにあるようです。


佐藤:あと、創価学会の面白さに、「曖昧にしておく力」があるんですよ。例えば信濃町に広宣流布大誓堂というのがあるんですが、これが他宗派でいう本山に相当する中心なのか中心じゃないのか、よくわからないんですよね。SGIも、会憲ができるまでは「創価学会インタナショナル」教という宗教であるとも、各国の創価学会のネットワークであるとも、どっちとも読めたわけなんです。「機が熟すまでは物事を決めない」っていう、中途半端にしておく力がすごくあるんですよね。


 それはやっぱり、池田大作氏の発想で、それが教団の集合的な意識を作っているんだと思いますよ。無理やり型にはめて「これで行かないといけない」ということになると、教義主導で、現実を切り捨てちゃう。わからないところはわからないままで、歴史に委ねるみたいなところがあるんですよね。


(構成/編集部・木村恵子)


※AERA 2020年11月23日号より抜粋